『ヒューマン・ライツ』北山あさひ 左右社
冬薔薇
2020年に第一歌集『崖にて』を刊行し、話題になった北山あさひさんの
第二歌集『ヒューマン・ライツ』。歌集題は〈人権〉という意味らしい。
①〈自己肯定〉できていますか ? チャーハンの中のなるとのピンクのかけら
②ワカサギのように心が反り返る怒っているのに元気といわれて
➂溶けて水、凍って氷 ほんとうの素直を生きて社会にいたい
④合歓の木は夜に眠るという話したいあの子がこの世にいない
⑤きらりきらりストップウォッチの螺子を巻く生放送だよじんせいは
⑥一枚一枚紙が出てくるコピー機のそばでわたし、わたしも減ってゆく
⑦墓地というやさしい場所に母と来てこの世の水に手を濡らしたり
⑧ばらばらになって家族がそれぞれに呼吸のできる一月一日
⑨いちまいの明るい更地こうやって消えてもいいの 春はあけぼの
⑩怒っても怒っても怒っても怒っても怒っても 届かない
➂「ほんとうの素直を生きて社会にいたい」が、北山さんの切なるねがいなのだろう。
歌集題の『ヒューマン・ライツ』にその思いは託されているが、前歌集の『崖にて』よりも
〈人権〉ということをより意識するようになったのだろう。
④⑤の下の句に、自身の感慨が述べられている。ことに⑤の「生放送だよじんせいは」には、
ほんとうに人生は遣り直しはきかないし、いつもいつもナマなのだ。
若い作者がそう自覚するのって、苦労しているのかしらん、などと思い遣る。
⑦⑨の佇まいは好ましい。結句の文語「手を濡らしたり」や、「春はあけぼの」のフレーズが
古典的である。一集のなかにこのような歌があると奥行が感じられる。
②に「怒っているのに元気と言われて」の歌がある。そして、
⑩では「怒っても怒っても怒っても怒っても怒っても」と、5句31音の4句まで使い、
「怒っても」を 連発している。怒りの凄さが伝わってくる。(パンチ力は、今も健在である。)
北山さんは怒り易い ? 人なのだろうか。
怒り易いというより、道理に叶わなかったり、理不尽なことに対する怒りなのであろう。
あとがきで「自由と尊厳の火はすでに心に灯っている…」とも、記している。
北山さん、じんせいは生放送だけど、時には、深呼吸して、
ゆったり空を眺め、雲を仰いでみませんか ?
まひる野叢書 第407篇
2023年11月6日 第一刷刊行
ヒイラギ(柊)の実
ヒイラギナンテン(柊南天)の花
ナンテン(南天)
2023/12/5