2023年12月 5日 (火)

『ヒューマン・ライツ』北山あさひ 左右社

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                      冬薔薇

 

2020年に第一歌集『崖にて』を刊行し、話題になった北山あさひさんの

第二歌集『ヒューマン・ライツ』。歌集題は〈人権〉という意味らしい。

 

   ①〈自己肯定〉できていますか ? チャーハンの中のなるとのピンクのかけら

   ②ワカサギのように心が反り返る怒っているのに元気といわれて

   ➂溶けて水、凍って氷 ほんとうの素直を生きて社会にいたい

   ④合歓の木は夜に眠るという話したいあの子がこの世にいない

   ⑤きらりきらりストップウォッチの螺子を巻く生放送だよじんせいは

   ⑥一枚一枚紙が出てくるコピー機のそばでわたし、わたしも減ってゆく

   ⑦墓地というやさしい場所に母と来てこの世の水に手を濡らしたり

   ⑧ばらばらになって家族がそれぞれに呼吸のできる一月一日

   ⑨いちまいの明るい更地こうやって消えてもいいの 春はあけぼの

   ⑩怒っても怒っても怒っても怒っても怒っても 届かない

 

➂「ほんとうの素直を生きて社会にいたい」が、北山さんの切なるねがいなのだろう。

  歌集題の『ヒューマン・ライツ』にその思いは託されているが、前歌集の『崖にて』よりも

 〈人権〉ということをより意識するようになったのだろう。

④⑤の下の句に、自身の感慨が述べられている。ことに⑤の「生放送だよじんせいは」には、

  ほんとうに人生は遣り直しはきかないし、いつもいつもナマなのだ。

  若い作者がそう自覚するのって、苦労しているのかしらん、などと思い遣る。

 

⑦⑨の佇まいは好ましい。結句の文語「手を濡らしたり」や、「春はあけぼの」のフレーズが

 古典的である。一集のなかにこのような歌があると奥行が感じられる。

 

②に「怒っているのに元気と言われて」の歌がある。そして、

⑩では「怒っても怒っても怒っても怒っても怒っても」と、5句31音の4句まで使い、

「怒っても」を 連発している。怒りの凄さが伝わってくる。(パンチ力は、今も健在である。)

 

北山さんは怒り易い ?  人なのだろうか。

怒り易いというより、道理に叶わなかったり、理不尽なことに対する怒りなのであろう。

あとがきで「自由と尊厳の火はすでに心に灯っている…」とも、記している。

 

北山さん、じんせいは生放送だけど、時には、深呼吸して、

                  ゆったり空を眺め、雲を仰いでみませんか ?

 

                                        まひる野叢書 第407篇

             2023年11月6日 第一刷刊行

 

 

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                                                    ヒイラギ(柊)の実

 

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               ヒイラギナンテン(柊南天)の花

 

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                   ナンテン(南天)

            

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                         2023/12/5

  

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2023年12月 3日 (日)

「猫に道徳」穂村弘  角川『短歌』2023年12月号 

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                 名前は、ミャオたん

 

いやぁ、ついに猫を飼いましたか。

吾輩は猫である、名前はまだ…

いやいや、名前は「ひるね」でござる。

初対面の時に「ひるね」をしてたからって、安直ではございますまいか。

(あまり、ひとのことは言えませぬ。初対面で「ミャオ」って泣 ? いたから、

「ミャオたん」って、名前をつけたM子と同じだから…)

「ひるね」にしても「ミャオたん」にしても、ユニークな名前だし、名付け親の

<愛>がこもっている。

 

       濁点をなるべく振って怖ろしく猫に道徳の授業はじめる

       真夜中の仔猫の耳をくちびるではさめばキクラゲめいた感触

       二ヶ月の猫がやってる六十一歳二ヶ月の私ができないことを

                  「猫に道徳」 穂村弘(かばん)

                          巻頭作品28首より

 

猫が主役 ?  の28首。

きっと、穂村さんは「猫かわいがり」を猫にするのであろう。

 

本日は、那珂川河畔でノラネコと遊んで来た。

ノラネコに「ひるね」と、名前を付けて呼んでみた。呼んだけど返事をしない。

返事をするどころか、憂愁のまなざしで川面を見つめている。

おまえの人生はせつないことが沢山あったんだろうね、と、話しかけた。

『ニャーオン』と、応えたような気もしないではなかったが、空耳かしら。

 

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後ろ髪を引かれつつ、帰宅した。

この寒さのなかで、あの猫はどうしているのだろうか。

 

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  わがやの守衛

 

 

 

 

 

2023年12月 2日 (土)

『喉元を』鈴木英子歌集 ながらみ書房 を、熟読。

「(略)日々の続きをもがきながら、生きている。」(「あとがき」) と、記す

「こえ」代表の第五歌集。

 

      ①本能のむきだしうなる動物が棲んでいるような娘のからだ

      ②人間の作りしものに人間が殺されてゆく 人間は罪

      ➂自閉症の娘十八、就労の春なり居場所のあること大事

      ④武器よりもしろきご飯を この風はかつて多喜二を吹きいたる風

      ⑤桃の子は桃の娘となりまして振り返りつつ先をゆくなり

      ⑥この子二十歳 白魚ならずつつかれし魚のようなる無惨な指せり

      ⑦みずからを消したき子かも嚙みて嚙みてなかったことになりたき子かも

      ⑧先生の親御さんならどうしますか おだやかにこころ詰め寄っている

      ⑨同じ日を治りがたき日を重ねゆくひとひひとひも母の晩年

      ⑩ひと月も病床の母と会えざればはじめからわれに母なきごとし

      ⑪もう窓はひらきっぱなしで風も虫も砂も悪意も混ぜれば甘露

      ⑫喉元を過ぎれば忘れるありがたさ忘れたわけではないなごり雪

      ⑬喉元を離るることのなかりしにまた喉元が焼かれんとする

 

読みながら、書きながら、ひりひりと心が痛くなる。

①➂⑥⑦は、作者の娘さんであろうか。「リスパダール」というちいさい一錠を

発作の激しい時には飲ませたりするようである。「誰が子に好んで薬を飲ませるか

御免わたしのこころがもたぬ」とも詠われている。

⑤の歌は、穏やかな、健康的な、ともとれるある日ある時の親子の歩みである。

 

この歌集の時期、作者は母を喪い父を見送っている。

⑧の歌は、医師の先生に「詰め寄っている」作者の詰め寄り方が、直球である。

 先生はなんと答えたのだろうか。

⑨⑩と「母の晩年」そして、自身の心情を見詰めている。

 

⑪の歌の迫力。「風も虫も砂も」までならまだ余地がありそうだが「悪意も」

「混ぜれば甘露」とは、なまなかなことでは詠えない。

 

⑧の歌で「直球である」と、述べたが、鈴木さんの歌はいずれの歌も直球勝負というか、

まっすぐな剛球である。「もがきながら、生きている。」人の、歌だと思う。

(鈴木さんには何度かお目にかかったことがあるが、その笑みと柔らかい雰囲気が

すてきであった。その彼女が実生活上では、ほんとうに「もがいている」のだと思い、

せつなかった。)

 

      わたしのなかの鍾乳洞が喉元を過ぎたしずくを湛え続ける

 

(産土の地を詠んだ歌の数々に触れることが出来ずにごめんなさい。)

 

              2023年10月17日 刊行

                 定価: 2640円 

 

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                     ヤツデ(八手)の花

 

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                     ツワブキ(石蕗)の花

              

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                                            ナンキンハゼ(南京黄櫨)の白い実と葉っぱ

 

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                                             2023/12/2      本日の空、ベランダより。

 

 

 

2023年11月28日 (火)

季節の便り(189) この紅葉は何の木でしょう ?

本日の歌会でわたしのスマホに保存していた紅葉の木の名前を

皆さんにお訊ねした。

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                 わがやのベランダの紅葉の木

                 何だかお判りでしょうか ?

                                                  答えはあとで。

 

マンションのベランダに植えられているのは、なんともビミョウというか、

まさか、植える人なんていない。

散歩の途次、白い種子が零れていたので拾ってきて植えたもの。

これ以上大きくなり過ぎたらどうしょうか、なんて心配している。

 

半分、答えたかたがいらした。

彼女は「ナンテンハゼ」。違う、違う。「ナンキンハゼ(南京黄櫨)」が正しい。

かく言う私も名前が出て来ず、シドロモドロ。

 

その「ナンテンハゼ」と答えたUさんから、お花を頂いた。

 

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               ノジギク(野路菊)とマンリョウ(万両)

               野路菊は牧野富太郎博士の命名による。

               


「朔風払葉(さくふうはをはらう)」、風に葉を委ねる木々。

ベランダの南京黄櫨も、この数日できっと散ってしまうことだろう。

 

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                                            妹から届いたお芋で、彼女お薦めの

                  「お芋ごはん」を炊いた。白菜の漬物も

                  漬け上がって、食べごろ也。

 

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 わがやの門番

 

 

 

2023年11月27日 (月)

歌集『空色の箋』下村すみよ  いりの舎

「短詩形文学」編集委員・運営委員。

『若草の章』に続く第四歌集で2013年6月から2023年6月までの

作品431首をほぼ制作順に収めている。

歌集題は「九条にアーチクルナインとルビを振る歌あり空色の付箋をつける」から

とられている。

下村さんは「憲法九条を守る歌人の会」の呼び掛け人として活動。

 

     ①大津波に襲われセシウム浴びせられ浜の校舎は廃墟となれり

     ②寄せ書きの旗を手渡す座り込み4313日目

     ➂千葉県の平和の礎(いしじ)に刻まれし田村姓のひとり広志氏の父

     ④蕎麦の花咲く安曇野の村に来ぬいわさきちひろの絵に会いたくて

     ⑤持ち帰ること叶わねば引き揚げまえ歌誌アララギを焼きしと父は

     ⑥戦争を知らぬ子どもが親となるこの幸いの途切れるなかれ

     ⑦茱萸坂(ぐみざか)の銀杏(いちょう)に季節の移ろいを感じつつ六年目のコールをあげる

     ⑧二十一種わが庭にあり牧野博士の庭園に見し花と樹木と

     ⑨ドアチャイムが鳴ればマスクを着けて出る非日常を日常として

     ⑩エンディングノートに記すひとつこと九条大事水野昌雄は

       

➂は沖縄詠。

 沖縄県にある平和の礎の名前は県別毎に並べられて建っているが、その千葉県の所に

「田村」の 名前があったのだろう。「田村広志」の名前をたちどころに思い出すのは、

田村さんの歌の 力でもあろう。戦死で不明の父を捜し続ける田村さんの歌は『捜してます』

の歌集に多く収められていた。

 

⑤「歌誌アララギを焼きしと父は」と、あるように父君はアララギの会員でもあったのだろう。

  父の歌を読んだことがあったのか、なかったのか、下村さんは父のように短歌を詠んでいる。

 

⑦「茱萸坂」といえば、たちどころに小高賢さんのことが思い出される。

 遺歌集『秋の茱萸坂』には、毎週金曜日に行われていた国会議事堂前のデモのことを多く

 収めている。

    もはやわれしりぞかざると決意する妻をいざない茱萸坂通い  

                    小高賢遺歌集『秋の茱萸坂』より

 

⑧牧野博士といえば言わずと知れた牧野富太郎博士。

 NHKテレビの朝ドラ「らんまん」で、ファンも増え、植物に興味を覚えた人も多いことだろう。

 下村さんの庭には、牧野博士の庭にあった「二十一種」の花と樹木があるそうだ。

 東京の練馬区にある牧野記念庭園の図録 ?  を開いて、冬の写真を眺める。

 「リョクガクバイ」ゃ「ユキワリイチゲ」が珍しい。

 下村さんの冬の庭には、どんな花が咲くのだろうか。

 

⑩ この歌は水野昌雄さんの『冬の星座』(いりの舎 2023年4月刊)に収められている、

  次の歌を下敷きにしている。

    エンディングのノートに記せというならば九条大事その他はなし

下村さんも、この歌集には日野きくさんと共に「あとがき」を寄せている。

「短詩形文学」という良き共同体に育まれた、師弟や友情関係が尊い。

 

 

◎本集『空色の箋』を一言で表すなら〈行動の人〉の歌、とでも言おうか。

 いつも動いている。いつも働いている。いつも行動している。

 

 

              短詩形文学選集 56

                                   2023年10月28日 発行

               定価:2500円+税 

    

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2023年11月24日 (金)

『岡井隆の百首』大辻󠄀隆弘 ふらんす堂  を読了。

歌人入門シリーズの ⑨

執筆者は、歌誌「未来」の編集発行人・選者。

 

岡井隆は70年以上の歌歴のなかで34冊の歌集を発行している。

その膨大な34冊のなかから100首を選出するのは大変だったことだろう。

本書の解説「調べのうたびと」で、先ず岡井隆の歌風の変遷を5つの時期に

分けている。

       第Ⅰ期  意味と調べの相克  1956〜1974年

       第Ⅱ期  古典的文体の再発見 1975 〜 1984

                   第Ⅲ期     ライトな文体の試作 1985 〜 1990

        第Ⅳ期  ニューウェーブ短歌への傾斜 1991〜 2000年

                   第Ⅴ期     口語文語混淆文体の豊熟  2001〜2020年

 

この分類が実に的を得ているというか、理解しやすい。

そして「写実はいつの時代も岡井の基底なのだ」の考察に大いに首肯する。

 

右ページに歌を1首、左ページにその解説(鑑賞)を施している。

読みやすく、文法にまで及ぶ解説は甚だ勉強になった。

「うちくだる」の複合動詞や、「たのしゑ」の詠嘆の終助詞、或いは「かに」の接続助詞など、

改めて納得したことが多い。

 

この100首のなかから好きな解説を1首だけ、下記にとりあげたい。

 

        定型の格子が騒ぎ止まぬ故むなしく意味をひき寄せにけり

                       『マニエリスムの旅』

         

      短歌を作らない人は、短歌は感動を歌う詩だと思うようだ。作者には何か言いたい事

     があり、それを五七五七七のなかに押し込む。そんな風に考えがちである。

      が、実作者の感覚は違う。言いたい事や意味は、むしろ歌が出来てから明らかになる

     ものなのだ。

      心のなかにモヤモヤしたものがある。原稿用紙に向かうとそのモヤモヤが五七五七七の

     形を取り始める。そして一番最後に虚空から「意味」がふっと降りてくる。あとはそれを

     引き寄せて書きつけるだけだ。作歌の現場の実感をそのまま歌にした一首である。

 

作歌する時の心情を、これほど的確に言い得た文章があっただろうか。

これは、岡井さんになりかわっての、大辻󠄀さんの作歌姿勢でもあろう。

岡井隆さんは、2020年7月10日、享年92歳で逝去。

 

              2023年11月20日 初版発行

                 1700円+税

 

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                 ベランダの ガーデンシクラメン

 

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           パンジー            

 

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      ハボタン(葉牡丹)           

 

 

 

 

2023年11月23日 (木)

季節の便り(188) すんなりとわたしの影も…

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               那珂川下流(りぼん橋より) 2023/11/23

 

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                                                那珂川上流(りぼん橋より)

 

久しぶりのなぁんにもない休日。

こんな日はことにうれしい。

何をしてもいいし、何をしようかなぁと思いめぐらす。

 

そうだ、白菜の漬物を漬けようと思っていて、白菜の半分をまたニ分割して

陰干ししていた。その白菜を漬けることにした。

13日に宇佐まで迎えに来てくれた友人に頂いた唐辛子があり、丁度良かった。

適量のお塩と昆布などをパラパラと白菜の間に振り、漬けた。

1週間もせずに食べられるだろう。

 

そして、ベランダの千日紅の花をまだまだ咲いていたけど、引っこ抜いた。

沢山の花や蕾が付いており、花瓶の2つに投げ入れをした。

空いたプランターには、さて何を植えようか。

 

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午後2時を過ぎて散歩へ。

那珂川の上の白雲の綺麗なこと。河畔の公孫樹黄葉、桜紅葉と眼福のひとときで

あった。橋の上を歩いているわたしの影を写真に撮った。

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その影を見ていて、若かりし日の第一歌集の歌を思い出した。

 

      朝の日のふりそそぐ道すんなりとわたしの影も歩きておりぬ

             『早春譜』恒成美代子歌集 (葦書房 1976年刊)

 

第一歌集の巻頭の歌である。

たぶん50年ほど前の歌になる。

なんとも素直な歌である。素直さが取り柄のような歌である。

 

おっと、いけない、いけない。

過去ばかり振り向くのはやめなければ!!

 

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                   桜落ち葉

 

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               桜落ち葉の道(那珂川河畔)

 

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                                            銀杏黄葉  2023/11/23 

 

 

 

2023年11月22日 (水)

『アボカドの種』俵万智 角川書店  を読む。

             

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NHKテレビの「プロフェッショナル 仕事の流儀」というドキュメンタリー番組を

ご覧になられた方も多いと思う。

4か月にわたっての取材の期間に詠んだ歌50首の連作「アボカドの種」から、このたびの

第七歌集のタイトルはとられている。

瀟洒な装画・装幀が印象深い。

 

       ①仙台の日ざし物足りなさそうな長命草に水をやる午後

       ②息子十九「プロフェッショナル」出演の打診をすれば秒で断る

       ➂滑走路に光の粒が広がってあの夏の日の糸島の海

       ④言葉から言葉つむがずテーブルにアボカドの種芽吹くのを待つ

       ⑤ほんとうに寂しいときは寂しいと言えないもんだ、タクシーが来る

       ⑥電球を換えてもらった ダンボールを捨ててもらった いい秋だった

       ⑦色づいてはじめて気づく木のようにいつも静かにそこにいる人

       ⑧息子から連絡はなく母の日は私が母を思う日とする

       ⑨尊敬はしないが感謝はしていると子に言われたり十六の春

       ⑩誰もみな誰かの子ども母のこと詠む歌多し題詠「故郷」

       ⑪九十の父と八十六の母しーんと暮らす晩翠通り

       ⑫別れではなくて死なのだ一冊の本をあなたに届けられない

 

いずれの歌も平淡な表現であり、解釈するのに難儀な歌はない。

定型を遵守し、調べの整った読み心地のいい歌ばかりである。

笑ったり、ふむふむと、鑑賞して、心が安らかになる。

 

①の「長命草」の歌が集中に3回出てきたので、よほど愛着があるというか、大事に

 育てているのだろう。調べたら沖縄の伝統野菜らしい。セリ科 。「牡丹防風(ボタンボウフウ)」

 とも呼ばれ、極めて栄養価が高いとか。

 

②⑧⑨を読むと、息子さんが精神的に極めて健康な成長 ? だと思い、頼もしい。

  若い時、ことに青年期に母親べったりというのも、気持ちがワルイものだし……

  素っ気ないくらいでも大丈夫。まだまだ俵さんは若いのだし、今から労られるのも

  どうかしら 。  

 

全体的に軽快なリズムカルな歌が多いのだが、わたしは⑩⑪⑫のような歌が好き。

⑩は歌舞伎町のホストクラブでの短歌の会だが、「誰もみな誰かの子ども」なのだ。

そして、「故郷」の題詠では、母のことを詠む歌が多い。

いじらしいというか、せつない。

 

⑪は、歳老いた両親の「しーんと暮ら」している様子が想像できる。

 

そして、⑫はわたしのもっとも好きな、推しの1首である。

    喧嘩別れや、そうでなくなんとなく別れてしまった人でも、届けようと

    思えば届けることは出来るだろう。それが叶わないのは「死」で隔てられた

    ひとなのだ。この胸を掻き毟るような悲しみ、せつなさ。

 

生きていると、ある日こういうことも起こり得る。それが人生なのだろう。

 

ところで、話が歌集からちょっと逸れるが11月2日の新聞に俵万智さんの紫綬褒章の

受章の記事が掲載されていた。60歳の年齢が記載されており「ウソ〜」と声が出た。

若くて、チャーミングな写真だった。そういえば集中に以下の歌があった。

 

        40+20=60   母として成人している還暦の朝

 

            2023年10月30日 初版発行

              定価: 1400円+税

 

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                  クロガネモチ(黒鉄縭)の実 ①

 

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                   クロガネモチの実  ②

  

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                    クロガネモチの実 ➂

 

 

 

 


       

2023年11月21日 (火)

『大正十二年九月一日』福島泰樹歌集  皓星社

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福島泰樹の第三十五歌集『大正十二年九月一日』が刊行された。

熱い、アツい、一集である。

ゆきつ戻りつしながら何度も読んだ。初見の人名なども頻出する歌集であり、

大正時代の厳しい弾圧を改めて思うに至った。

40名近くの人名が出てくる。いや、もっとあるかも知れない。

 

        「自在な人流の変換」と「調べの喩法」をもってストリーを

        展開してゆく方法の数々は、私が創出したものといってよい。

              跋  「うたで描くエポック 大正行進曲」より

 

福島泰樹の自恃のこもる文言である。

自信をもって自らの方法論を開示し、肯定している。

「その言や良し」と、私は秘かに拍手している。

 

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        九月一日午前十一時五十八分、関東大震災発生

      空も焦げ血のりとなって地を覆う帝都壊滅 戒厳令下

 

        九月十六日、大杉栄、伊藤野枝、憲兵隊本部へ連行される。

      忍び足でやってくるもの秋ならず曇り日の空みえざるなにも

 

        大正十二年九月十六日

      囓らずに手に大切にもっていた宗一、赤い林檎はいかに

 

           風狂の歌

        赤貧を洗い赤貧干していた大正という時代の子等は

      省線の遠音とともに潰えゆく憶い出なれば人に語らず

   

        大正十二年九月大阪、大杉栄、伊藤野枝、橘宗一虐殺の報に接す

      虐殺された野枝については語らねど九月紅蓮の火は瞼灼く

 

          金子ふみ子の歌

        縊られし者らが立てる音なるか歯軋(はぎし)りなるか闇に消えゆく

      花吹雪花は散れども開け放つギロチン窓に陽は零れ来る

 

        大正十五年七月文子、栃木刑務所で溢死

      溢られて果てし人らの魂か真っ赤に咲いて落下しゆくよ

 

 

「(略)私もまた時代と人への追憶を更に濃くしてゆこう。死者との共闘、そう死者は

 死んではいない。」(「あとがき」より)

 

 

               2023年10月30日 初版第1刷発行

                  2800円+税

 

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☆    ☆

歌を書き写しながら、今から50年も前の「女性史講座」を思い出していた。

当時、幼い子どもとの暮らしは、平凡であり安泰な日々でもあった。

しかし、これではいけない、何か学ばなければと思いたち一丸章先生の「女性史講座」を

受講した。この講座によって遅まきながら、伊藤野枝を、金子文子を、識ることになった。

当時の「わたしの読書ノート」(1973年)小冊子には、瀬戸内晴美の『余白の春』(中央公論社)の

ことがが綴られていた。

 

        大正十二年九月一日突如襲って来た関東大震災のさなか朝鮮人や大杉栄ら

       社会主義者たちは捕えられた。 この中に金子文子、朝鮮人アナキスト朴烈の

       夫妻もいた。彼等は爆弾を似って皇室に危害を加えようとしていたとして、

       大逆罪に問われ二人に無期懲役の罪が下される。

        朴烈は千葉へ、文子は栃木の刑務所に収容されたが、大正十五年、文子は

       作業のマニラ麻を使い自らの命を絶つ。二十三歳の夏であった。

        文子の幼年時代として七年間ほど朝鮮に里子に出され、十六歳の春再びふる里へ

       戻って来る。後に朴烈を知り、無政府主義へ傾いてゆく。

    

感想らしきものも記していないが、当時の私としては相当ショッキングな金子文子の、人生で

あり、生き方、だったように思う。

 

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2023年11月16日 (木)

『歌壇』2023年12月号 対談「うたを生きる、うたに生きる」

長谷川櫂氏と坂井修一氏、お二人の対談に惹きこまれた。

「うたを生きる、うたに生きる」のタイトルの良さと相俟って、

言葉の其処此処に釘付けになった。

 

     坂井   言葉の生まれ方というのは生き方なんだなあ。

 

     長谷川  地道に人間を磨くしかないと言っても納得しないんですよ。

          (略) 俳句のコツ、方法が分かれば俳句がうまくなると思っている。

 

     坂井   少しでもいいから自分の人生観を反映させたい、そんな欲望は、

          今や希薄になっている気がしますね。

 

ちなみに長谷川櫂氏は俳人・朝日新聞俳壇選者。

「元の句が有名な句でないと本歌取りにならないですね。無名の句の本歌取りは

 盗作です。」とも、語っている。その長谷川氏の語った「人間の方がA I 化している」や

いちばん怖かったのは「人間が戦争をするのも欲望があるからだから、A I も戦争を

始めますね。」だった。

 

蒙を啓(ひら)かれた対談であり、わたしは蛍光ペンを使いながら読み耽った。

 

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