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2014年5月 9日 (金)

歌集『午前3時を過ぎて』松村正直 六花書林

2006年から2010年までの555首を収めている。年齢としては、35歳から40歳までの作品。

*右端より一人おいてと記されし一人のことをしばし思うも
*詳細に書かれたるゆえ書かれざる事項は重し年譜のなかに
*たわいない遊びとおもうこの場にはいない誰かをひたすら褒めて


省略されたり、外された事項が気になる?精神構造かな。
弱者への心寄せ。物事の本質を見抜こうとする怜悧な視線。
言葉は平易ながら、重くれの歌でもある。
しかし、松村さんの歌は、賑々しくなくて、心にストンと入ってくる。
ことに挙げたいのは次の3首。
*しらかみはしめりをおびて何年ももうあなたではない人と住む
*遠き日を忘れずにいる指先が机上に冬の鶴を折りたり
*水量が昔はもっとあったのよ謝るごとく君は言いたり
青春回顧のような歌、そのかすかな痛みが伝わっくる。
生活に、日常に、どっぷりつかっている時、不意に兆すいたみ。
「あなた」はあの日のあなたと地続きのあなたなのに、
「あなたではない人」。
でも、もう、あの日には戻れない。それが現実、それが生活。
*借りてきた猫であるより他になく時おり細き声をして鳴く
*大皿はすんっと青くて私より失われたる若さを思う
*少年のころの私が唐突によみがえるナオちゃんと呼ばれて


「失われたる若さを思う」って、まだ、はや過ぎるようにも思うけど…
理解はできる。「売るほどの未来」があった日をいまは尊くも偲んで、
ノスタルジーたっぷりの一集であった。
*卓上に言葉は揺れて居心地の良い場所に、そう、長く居すぎた
*大切にしておかなければ大切でなくなってしまう大切なもの


居心地の良い場所に居続けられない性分。
でも、だが、だから、
ホントはその場所を大切にしないといけないんだ、な、と。

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