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2014年6月15日 (日)

歌集『月と水差し』 和田沙都子  砂子屋書房

「短歌人」所属の著者の第一歌集。

2003年以降の作品から400首余を収録。

栞文を、小池光・鷲尾三枝子・内山晶太が書いている。


   *暮れ残る若狭の寺の山門に天狗がおいた烏瓜ひとつ
   *神保町秋の露台にひらかれて『梁塵秘抄』は深呼吸する
   *肝心なことを言へずに受話器おく ああ三本脚の机のやうだ
   *わが胸につむりあづけて眠りゐる天の雫とおもふ重みに
   *イシククル湖の湖底に沈む水差しの幾千年は月が知るのみ
   *なにもないタクラマカンが見たくつてどれほどの本をわたしは買つたか
   *おびただしい旅の写真よ未整理のままに私はまた旅に出る
   *「こはくない、これはおまへの影だから」四歳の姉がおとうとを抱く
   *十一月の雨に打たるる朝顔に今日は幾たび話しかけたか
   *或る日不意に魔法が解けてうごきだす日が来るその日をおもひ目を閉づ


固有名詞の入った1首目の「若狭の寺」と「烏瓜」の取り合わせ。
4句目の「天狗がおいた」の発想によって、生彩が。

2首目の「神保町」と『梁塵秘抄』。結句の「深呼吸する」の展開がいい。

4首目と8首目の幼子に寄せるまなざしの柔らかさ。
「天の雫」の比喩は、いのちに向ける敬虔ささえ感じる。

著者は、笛を吹く人らしい。ベトナムやネパール、シリアなどの旅にも
その横笛を持参する。
タイトルになった5首目の歌の「イシククル湖の湖底」という場所設定からして、
浪漫性はまぎれもない。


日常と、「旅」という非日常を行ったり来たりしながら、9首目のような孤独感の
滲む歌を作り、10首目の歌の、東日本大震災に対して果敢無い望みを託す。

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