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2014年7月29日 (火)

歌集『声を聞きたい』 江戸 雪  七月堂

「この歌集におさめる歌を作っていた間、そして今も、/子どもっぽいほどにこだわっている/言葉。」

詩のような「あとがき」の3行ほどを引用した。作者の第5歌集である。

ほとんどが口語体であり、一読、相聞歌集のような趣を呈している。

集題に「声」があるように、「声」の入った歌が散見される。
そして、「言葉」。

    あの時の声はあなたにかえします風にゆれいるエノコログサよ
    まひるまに小さく歌をうたうなり声はどこへもゆかずただよう
    ここにあるただあるのみの真っ白の大皿いちまい声を聞きたい


1首目は、耳に聞きとめた「声」をかえすとうたい、2首目では、自分の
発する声がどこへも届かないむなしさをうたう。そして、3首目では、乞うような
「声を聞きたい」である。



作者の心の揺れは「言葉」に対しても、あれか、これかというように
うたわれている。

    わたしには言葉があるとよろこんで海にむかって歩いたずっと
    声なんか言葉なんかと肘をつく欄干のした木津川がゆく
    投げかけた言葉はいつか届くもの水辺に残念石が転がる



作者の生活形態を全く知らないわたしだが、歌からもあまり生活上のことは
出てこない。あえて、そういう世俗的?なことは、外してしまったのかと思うが、
そのあたりが少しく惜しい気もしている。歌から窺えるのは、中学生くらいの
息子さんがいること。作者は丙午どし生まれということか。

だが、それらを置いても、リアリティのある歌が多く、小道具(素材)が効果的に
配されている。「電話」「手紙」の語彙が多いのは、世代的なものかしらん。


    一本の飛行機雲のありようもつたえられずに電話を切りぬ
    電話とはときにぷつりと切るもので風に大きくたわむオリーヴ
    真夜中に書いた手紙の混沌を落書きだらけのポストに入れる
    青空に切り傷ひとつある朝に旅の途中の手紙を出した
    海と海につなぎめがあり真夜中にめざめたときはメイルください

そういえば、「あとがき」の日付けと共に「電話を切ったあとに」と記されていた。
そのこと自体は変哲もないことだが、やはり、この言葉は作者にとって重要だった、
のだろう。


さて、さて、わたしがもっとも注目したのは、次の2首のような把握の効いた歌。
2首共に「膝」が。その「膝」が十分機能している。「膝を濡らして」「膝のたかさに」
いいなぁ、と、思う。

 
    いちどだけ生まれたわれら天気雨に膝を濡らして自転車をこぐ
    水仙は膝のたかさに咲いていてこんなに遠くまで会いに来た
 

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