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2014年7月19日 (土)

歌集『さくらのゆゑ』 今野 寿美  砂子屋書房 

珍しく「あとがき」のない歌集。

巻末に書かれているのは、「『さくらのゆゑ』は十番目の歌集です。三百四十二首を
収めました」の2行のみである。

    まづきつとあるいはもしやおそるらく さくらのゆゑといふことあらむ

    はつはつに今も咲かせていとほしきもののひとつのきうかなづかひ

    詫びたしと心の底から思ひゐるひとつふたつにあらず息子に

    ごく自然に忘れてほしいといふ手紙忘れさせないその別れ方

    子のズボンの裾のほつれをかがりゐる静かな時間がまだわれにある

    かなかめと言へばもきちと返りくるやうな短歌史その末のすゑ

    横顔でなければならぬ瞑想の詩人もレンズの中の野鳥も

    赤でなく紅と書かねばならぬことたぶんきみにはどうでもよきこと

    菊なますもつてのほかではないらしく〈おもひのほか〉とつつましき嵩

    ここまでと立ちあがるとき付箋二枚身よりこぼれてわけがわからず


 
1首目は歌集題となった歌だが、上の句の副詞の畳掛けが面白い。
2首目の歌は、旧仮名遣いに拘泥する作者ならではの一首。
同じように、7首目では「横顔でなければならぬ」と、断定している。
8首目の「紅」の字に対する拘り。
今野さんの文学(短歌)に対する姿勢というか、美学が感じられる一集だと思った。


わたし自身は最後の歌がいちばん好き。
付箋を付けながら仕事をしていたのだろう。ようやく切りをつけて立ちあがった時、
付箋がひらひらと零れたのだ。
何気ない一瞬のことながら、なんともエロティシズムがある。
 

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