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2014年8月28日 (木)

歌集 『薫染』 九條 武子   實業之日本社

昭和3年11月に刊行された九條武子の歌集。奥付に印刷されている定価は、

壱圓八拾錢。昭和3年といえば、1928年。今から86年前になる。



九條武子は、京都西本願寺に法王の次女として生まれ、男爵・九條良致と結婚。
夫の外遊の十余年間を、離れ棲む。名流夫人の孤独憂愁な歌として、柳原白蓮と
共に、もてはやされた。


本歌集には、佐佐木信綱が懇切な序文を書いている。
そして、この歌集が出たのは、武子が亡くなってから9ヶ月後のことになる。
「薫染の後に」として、巻末には、新村出、久松潜一、渡邊とめ子などが、武子の
歌と人に触れて書いている。ことに渡邊とめ子の「一月十八日より二月七日まで」の
文章は、亡くなる日までのことが微細に記されている。


たまたま読んだ角川の『短歌』の2014年9月号の特別対談「村岡花子と短歌」に、
武子のことが話題になっていた。「一人の女性としてすごく濃厚だった…」と、
語られていたが、そうだろうか?
この歌集の序文を読む限りでは、むしろ、10年余の独居生活の悲痛な叫びが
伝わってくる。そのあたりの歌を佐佐木信綱が紹介している。

    いくとせを我にはうとき人ながら秋風吹けば恋しかりける

    十年をわびて人まつひとり居にざれごといはんすべも忘れし

    片すみに追ひのけられてそれのみか忘られはてし我にやあらぬ

    わが胸にかへらぬ人かあまりにもはかなし声もまぼろしもなき
 
    家をすて我をもすてむ御心か吾のみすてむおんたくみかや

『薫染(くんぜん)』は、旅行詠や叙景歌が多く、前歌集『金鈴』での怨言歌などが
影を潜めている。


   
   青葉がくり天主教堂の文字白うひるを鐘鳴る長崎の町

   早春の雨たそがるるやぶかげに胡粉(こふん)の点をうつ梅の花

   風わたれば五月(さつき)ま昼の光ちりこまかにゆるるもろ木の新葉(にひは)

   空梅雨(からつゆ)の曇り日の風そよ吹けばかわける松のみどりゆらげり

    
   藍に光る琵琶の大湖ひるたけて白帆がならびまん中をゆく



*今日は北九州の歌会、この歌集をSさんに返さなければ…
 
 

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