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2015年1月15日 (木)

『すずめ』 藤島秀憲歌集  短歌研究社

「あとがき」によると、「父が死に、十九年の介護がおわりました。」と書かれている。

前歌集『二丁目通信』から三年半がたち、そのごの介護を軸にした生活、そしてその

歌306首を収めている。(平成25年4月刊行)


       夏椿さらさらと咲きお父さんパンツを脱いだらパンツを履こう

       百万円入りのズボンを捜す父、サンチョ・パンサを演じるわたし

       要介護1が2になり4になりベッドの柵をさぐる父の手

       含羞草(おじぎそう)おじぎをすれど車椅子デビューの父は下向くばかり

       ショートスティより帰り来し父その夜のおむつ替えればすみませんと言う

       湯気のたつごはんがあって父がいてあなたにたまに逢えて 生きてる

       来る人と去る人の数合っていて結局ひとりぼっちのすずめ

       抱きしめる命を持たぬわれにして死を引き寄せることのたやすし

       学歴にも職歴にも書けぬ十九年の介護「つまりは無職ですね」(笑)

       朝に書き昼には消してしまう歌悲しきことを悲しく詠みぬ



こうして、書き写しているだけでも胸が詰まってくる。
大変だったろうな、つらかったろうな、などと口で言うのは容易い。
男の人が一人で19年間も父親を介護したのだ。



要介護1や2ならまだ少しはらくだが、3から4へとその介護も重くなる。
精神的にも追い詰められるような感じになるものだが、歌は暗くない。



7首目の「湯気のたつごはん」に生の歓びが伝わってくる。
19年間介護した父親が亡くなったあとの歌、9首目はせつない。
「抱きしめる命」は、父親だったのだ。その父親に死なれてみると、自身の
生きていることさえ意味をなさないような「死を引き寄せることのたやすし」という
感覚なのだろう。


しかし、死ぬわけにはゆかない。
この歌集『すずめ』は、明日に向かって、作者が生きてゆくための「さようなら」を
告げる歌集であり、そして、何より、出立の歌集であろう。





☆ ☆ ☆
先日の新聞によると、2025年には65歳以上の約700万人が認知症になる
との推計を発表していた。65歳以上の5人に1人が認知症になる計算とか…


介護の問題は、ますます深刻化してゆくことだろう。
ひとごとではない。もうすでにひたひたと近づいている。

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