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2015年2月14日 (土)

歌集『水の夢』 春日真木子  株式会社 KADOKAWA

前々回、前回につづく3回目の『水の夢』の歌の紹介である。

今年はまだ2月半ばだけど、この歌集は、きっと今年の歌集で評判になるだろう、

と想像している。そんな予感がするのも嬉しいことである。

さてさて、10首を紹介したい。




     米寿とぞそらおそろしき通知くる保育園児の向日葵の絵と

     燃えよとぞ狂へとぞいまくれなゐの薔薇が米寿の胸先へくる

     わたくしの輪郭おぼろとなる勿れ山椒の前に一歩踏みいづ

     まつすぐに日出づる国に寄り添ひし近代ありきわれは長居す

     眼は千里耳は風に順ひて一日さすらふ長崎の街 

     目も耳も閉ぢて開きて知らさるる八十歳(はちじふ)超えし五感の今を 

     自(し)が五感みづから守れ平手にてわれを打つなり山の朝風 

     赤げらのおとづれ聞こゆ鉛筆を指に挟みしままに寄りゆく 

     一位の実いまだに赤き一粒が夏痩せわれの心を照らす 

     濁りたる懸巣のこゑのひびく径行きし歩数を私は帰る





1首目は、米寿の通知。保育園児の向日葵の絵と共に届いたと解釈してみたが、
どうだろうか。米寿と保育園児の取り合わせが絶妙。そして、向日葵の絵が希望を
表している。

2首目はその米寿のお祝いの席であろう。「燃えよとぞ」から一転して「狂へとぞ」を
引き出す力技。これは精神力が強靭でないとなかなか言えない発想である。



3首目の上の句の自らを叱咤する声(ことば)の力強さ。



4首目では「われは長居す」と、謙遜?しているが、どうしてどうして、それは自恃とも
いえるものが下敷きにある。



5首目は長崎での歌、著者は南国・鹿児島の生まれでもあるので、地理的にも
長崎には親しみを感じるのであろう。「とろくすん」一連中の1首。他にも「眼鏡橋」の
連作がある。


6~10首は、平成23年の歌。
この時点で、作者は85歳であるが、歌の張りと艶は申し分なく、なんだか尊敬というより
畏敬の念につつまれてしまう。このように85歳の〈生〉を生きられるというのは、やはり
本人の努力、そして意志の強さもあるのだろう。10首目の歌の「行きし歩数を私は帰る」
は、なんでもないことばながら、このことばにハッとさせられた。




                                  (2015年1月25日発行)





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