« 『夢屑』 島尾敏雄  講談社文芸文庫 | トップページ | 又吉直樹、加計呂麻島へ   BSジャパンテレビ »

2015年7月30日 (木)

歌集『いきつもどりつ』 日野きく  現代短歌社

『蓮燈』につづく2007年から2015年1月までの作品をおさめた第8歌集。

積み重ねた歳月。あと戻りはせずに、今を生き、さまざまな別れを、日常を詠う。

「7年の間よき同伴者であった飼い猫」を詠んだ歌にことに惹かれた。


      ありのままそのまま生きるが願いとぞつつまずありし憶良慕わし

      逝く前の母の踵のやわらかさ春の雪降る夜のあたたかし

      気まぐれに膝に飛び乗るにんげんのわたしとこれから生きようお前

      麻布十番洋館二階に乾杯すわが身の老いのともかくとして

      三線(さんしん)に合わせ歌えば窓の外うりずんの海青く広がる

      機嫌よく生きていますか海の上いつしか湧ける白雲が問う

      雪の傘払いて入る玄関のうちより「おかえり」の声ありし日よ 

      かぼちゃには似合わぬ名前雪化粧硬く丸きをどこから切ろうか

      避難所の食費今日より有料と小さき記事の心に残る

      パソコンに向かう背後に鈴の音首につけるが近づくらしく





『いきつもどりつ』の日常、ささやかな歓び。そして、かなしみが平易なことばで
うたわれている。



3首目、10首目は猫の歌だが、「猫」ということばはない。ないのだが、猫とわかる。
日野さんは、佐野洋子も好きだということが分かる。佐野洋子の猫をうたった歌、



     
      誇らかに絵本コーナー中央に立つ一匹は佐野洋子のねこ

      太ぶとと長き尾を立てこのせりふ「おれはねこだぜ」「大将なんだぜ」




そして、2首目・7首目の歌。
2首目の踵のやわらかさが、せつない。踵に触れ、さすってあげないとその
やわらかさには気がつかないだろう。


7首目の「おかえり」と言ってくれたのは生前のお母さんだろう。
亡くなったのち思い出すのは声であるのがかなしい。もう、その声には2度と
聞くことはできないのだ。


9首目の歌は、避難しているひとたちに心が寄り添っている。
その小さい記事に心を痛めている。


作品が日常の中から紡ぎ出され、自然体であるのがなんとも好ましい。


年齢を重ねてゆくことを恐れず、「ありのままそのまま生きる」のが
日野さんの願いでもあるのだろう。


      

« 『夢屑』 島尾敏雄  講談社文芸文庫 | トップページ | 又吉直樹、加計呂麻島へ   BSジャパンテレビ »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/2032066/60962928

この記事へのトラックバック一覧です: 歌集『いきつもどりつ』 日野きく  現代短歌社:

« 『夢屑』 島尾敏雄  講談社文芸文庫 | トップページ | 又吉直樹、加計呂麻島へ   BSジャパンテレビ »