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2015年7月20日 (月)

『大西民子 歳月の贈り物』 田中あさひ 短歌研究社

歌誌「合歓」に9年間にわたって連載したしたものを1冊に纏めている。

大西民子の10歌集を丹念に読み解き、その私生活まで踏み込んで考察している。

大西民子は、大正13(1924)年5月8日生まれ。平成6(1994)年1月5日没、享年69歳。

「はじめに」の章で、筆者の田中は大西民子の全歌集の印象を色彩で表している。




        …略 群青色、すなわち濃いブルーではないだろうか。潔癖、誠実、
        悲哀などを総合した色彩である。私はそれを「大西ブルー」と名付け
        たいと思う。 ……略



10冊の歌集の中から高名な歌を1首ずつ挙げる。



        かたはらにおく幻の椅子一つあくがれて待つ夜もなし今は

        夢のなかといへども髪をふりみだし人を追ひゐきながく忘れず

        てのひらをくぼめて待てば青空の見えぬ傷より花こぼれ来る

        報復は神がし給ふと決めをれど日に幾たびも手をわが洗ふ

        円柱は何れも太く妹をしばしばわれの視野から奪ふ

        鰭も持たず翼も持たず終るならむ長き刑期のごとき一生(ひとよ)を

        一本の木となりてあれゆさぶりて過ぎにしものを風と呼ぶべく

        妻を得てユトレヒトにいまは住むといふユトレヒトにも雨降るらむか

        子をなさば付けむと思ふ名のありき幾つもありき少女のわれに

        とどこほる雲のごときは差し措きて力ある者走り続けよ




1首目から『まぼろしの椅子』『不文の掟』『無数の耳』『花溢れゐき』『雲の地図』
『野分の章』『風水』『印度の果実』『風の曼荼羅』『光たばねて』の歌集掲載歌。


なお、7首目の歌は、埼玉県岩槻市の浄国寺の入口付近に立つ歌碑に刻まれている。


筆者、田中あさひの綿密な調査が効を奏して、大西民子の歌を、
より深く味わえた。大西ファンにとってはまたとない1冊であろう。

太平洋戦争の戦中、戦後が青春時代前期と重なってしまった世代である大西。
男性中心社会でかつがつ働いてきた大西民子。



       …筆名の大西の姓は離婚した夫の姓である。十年間待っていた
       夫から急に離婚の話を切り出されたとき、筆名にそのまま大西を
       名乗ることだけを私は条件にした。
                            (『短歌研究』 昭和61年1月)
       

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