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2015年8月18日 (火)

歌集『樹雨降る』 川本 千栄  ながらみ書房

第一章から第六章に構成されており、2008年4月〜2014年3月までの6年間の作品、

484首を収めている。年齢でいえば46歳から51歳まで。


       泣き寝入りした子とただに疲れたるわれを隔てて襖戸はある

       性愛の薬缶は沸いて忙しなし男はわれの肌越えてゆく

       枯れかけたホテイアオイの陰にいる赤い金魚よ寂しいですか

       巻き緊むるもの持たざれば枯れてゆく 朝顔の蔓のごとき思いは

       冷えたがる頬へと指を突き立てて 思い出などは決して語るな

       重ねても重ねてもこの色ではない詠っても詠ってもこの言葉ではなし

       ゴーギャンのタヒチの女の丸い乳その安寧が私にはない

       木の雫す静かな時間 あなたとは出会わなかった生を思えば

       歌に詠む他には何ができるのか肉を持たざる歌というもの

       君はわれを軽く片手で制したり煮立てるような受話器取る前






3首目の「赤い金魚」は作者自身のようでもある。作者が寂しいから、赤い金魚も
寂しく目に映るのだ。


6首目、9首目は、短歌を詠んだものだが「詠っても詠っても」不全感の残るような
思いを捉えている。「肉を持たざる歌というもの」に対しての作者の答えは避けら
れているが、肉を持たざる歌であったとしても、さし当り詠ってゆくしかないのだろう。



10首目の歌は、ある瞬間を活写している。どこにでもある夫婦の日常の一コマに
過ぎないが、一瞬の心の機微が伝わってきて、せつなくなってしまった。
深読みかも知れないが…



いずれの歌も作者・川本千栄の心のありようが焙り出されている。
内省感のつよい、自分を責めるタイプのひとのように思えるのだが、

これは、わたしだけが感じることかも知れない。






cat    cat

川本千栄といえば、現代歌人集会春季大会が岡山で開かれた時のことを

思い出す。平成16年だったろうか。「批評の現在」ということで、川本はパネリストの

一人だった。論旨明快、心の中で大拍手していた。懇親会でそのことを伝えたかった

けど、結局あいさつも出来なかった、と思う。

その時の垣間見た川本千栄は、理知的なオーラを発していて、近寄れなかった。

あれから、10年近くの年月が経ったのか、と、感慨にふけっている。

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