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2015年9月14日 (月)

詩集『素へ還る旅』 大野隆司  花書院

筑豊田川の詩人・大野隆司(おおの・たかし)の魂のこもった詩集。

Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ章に構成されている。


         Ⅰ 素へ還る旅

         Ⅱ 筑豊レクイエム

         Ⅲ 『王国と闇』のエチカ





Ⅱ章の「筑豊レクイエム」に胸が痛くなった。

炭坑歌人の「山本詞」へ、「那須信義」へ、「まつしま・しずゆき」へ、

いずれも亡くなったひとへのレクイエムが迸る。







             桜蕾忌

             此の闇の彼方拓かむ未知の炭層ひしめきて

             一人の吾にし迫る       -山本詞-

         ー略

         一九六二年三月三〇日午後八時三〇分

         乙方入坑作業中

         本層一卸左三片の上添坑道において

         暴走する炭車の下敷となり

         担架が坑口までのぼりつかぬ間に

         最後の息をひきとった、という。
        

         「地底の原野」に殉じた

         歌人山本詞(つぐる)の死を悼み

         古河目尾炭鉱労働組合は
    

         一時間五〇分の抗議ストに突入した

         もはや筑豊の地図から抹殺された
  

         幾百の炭鉱名。

         略ーー





            鎮魂歌

              -故那須信義兄に捧ぐー

         略ー

         ヤマがうばわれ

         幾百幾千の骸をのみこんだ

         坑口がつぎつぎと封鎖される

         流亡と辛酸の人生の

         ふきだまりとなった

         どん底のふるさとで

         ひとびとのこころは

         ひからびはじめた

         飢えたまなこをひからせる

         こどもたちのどすぐろい気迫に

         あなたはやさしすぎて

         ちょっぴりたじろぐこともあった

         しかしあなたはいつも

         あるがままのこどもたちを

         見棄てようとはしなかった

         略ーー




            鎮魂歌のための断片的走り書

                ー故まつしま・しずゆきに捧ぐー


        略ー

            (生きている時間は少ししかなさすぎる

             急がなければ……)


        それはあなたの声なのか

        わたし自身のおろかな繰りごとなのか

        夜を徹して魂をもみ合った

        あわただしい日々の会話のきれぎれが
   

        かわいたのどもとにせりあがってくる

        一塊の石炭を得るために
 

        どれほどのボタを掘らなければならないか

        一片の詩と真実をかたるために

        どれほど血まみれの沈黙と

        透きとおった愛が必要なのか

        ーーーあなたは坑夫のように

        からだで知りぬいていた

        略ーー







*  *  *

完璧に引用できなくて申し訳ないかぎり。


それにしても、義母の重篤騒ぎでこの詩集を読むのが遅すぎてしまった。
そのことが返す返すも残念でならない。

あと10日早く読んでいたら、もつと何か書けたのかも知れないと、すでに手元を
離れてしまった文章のことを思ったりしている。

10日前、ほんとにわたしに猶予はなかったのか、


田川にも行ったのに…
歌碑を探し出すことも出来なかったし、誰にも会うことが出来なかった。

 

         
      

 

         
         

 

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