« 歌集『蓮喰ひ人の日記』 黒瀬珂瀾  短歌研究社 | トップページ | 受賞記念対談 川上弘美×又吉直樹  『文學界』 9月号 »

2015年9月 8日 (火)

歌集『みどりの卵』 時田則雄  ながらみ書房

北の大地にどっしりと根を張る野男、時田則雄の第11歌集。

時田則雄といえば、やはり第一歌集の『北方論の』のイメージが根強い。

トラクターで荒々しい土塊を耕し、「トレーラーに千個の南瓜と妻を積み」の、

スケールの大きい、荒々しい歌の数々である。

あの第一歌集が出てから三十年有余、時田の百姓道は健在である。



      百姓道四十七年 ありがたう 土はわたしを育ててくれた

      友情は薄れることもあるけれど土は裏切ることなどしない

      エゾイチゲの花が咲いたと妻が言ひさうかと花を覗きにゆきぬ

      秋はもう肩のあたりに来ているぞ俺は力のかたまりである

      雨降れば雨のささやき聞きながら風吹けば風のこゑ聞きながら

      ポロシリは茜の色に染まりつつ雲の真上に聳えてゐるなり

      少年のころの私は魚にも樹にも草にも鳥にもなれた

      七十歳はもうすぐそこだ足はまだ元気だ春の土踏んでゐる

      百姓とはすなはち大らかに遊ぶ人雲を眺めてけむりになつて

      カムイから聞いた話のそのひとつ 石がみどりの卵を産んだ







百姓道47年、もうすぐ70歳になる男のエネルギーのこもった歌に胸が熱くなる。

「大らかに遊ぶ人」と言ったって、表に出ない(歌にしない)苦労もかなしみもある

だろうに…。しかし、「土は裏切ることなどしない」とうたうように、信じているんだ。

土を、百姓として生きる自分がいちばん自分らしいことを。

もう「魚にも樹にも草にも鳥にも」なれないけれど、

男のロマンが時折顔を覗かせて

『みどりの卵』が胸中にある…

« 歌集『蓮喰ひ人の日記』 黒瀬珂瀾  短歌研究社 | トップページ | 受賞記念対談 川上弘美×又吉直樹  『文學界』 9月号 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/2032066/61523466

この記事へのトラックバック一覧です: 歌集『みどりの卵』 時田則雄  ながらみ書房:

« 歌集『蓮喰ひ人の日記』 黒瀬珂瀾  短歌研究社 | トップページ | 受賞記念対談 川上弘美×又吉直樹  『文學界』 9月号 »