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2016年2月 8日 (月)

歌集『奥津磐座』 寺尾登志子  ながらみ書房

         歌集の題は、奈良の三輪山頂上にある巨石群を示している。

        若い頃から憧れていた三輪山に還暦過ぎて登拝し、「奥津磐座」と

        いう語を得た。





「あとがき」に書かれていた言葉である。

2010年の夏から5年の間に作った歌が収録されている作者の第三歌集。

「りとむ」所属。



       戸籍謄本とりて確かむ子の除籍めでたき春のわが些事ながら

       時のたつほどに染み入る色と見るジャカランダの木にモーヴの花の

       待ち人は来ず失せ物は見つからずあと一箇月だけ五十七歳

       海の見える丘の近代文学館茂吉待つゆゑ坂上りゆく

       いつまでも一緒ではない幸ひは淡きベージュの秋のセーター

       六十代間近に迫り如何にせむ伸びすぎた髪まづ切りにゆく

       もし君が見上げなければ一本の樫にすぎない私であつた

       ゆきゆきて倒れ伏すとも〈萩の月〉食めばやさしきみちのくのひと

       コスモスの淡き翳りよ亡き母よあなたの娘は祖母となりたり

       山頂はしるく注連立て深々と天に交はる奥津磐座(おきついはくら)


   1首目、子の結婚という慶賀を表だたにせず、少しく寂しさを感じさせる除籍を

        うたっている。

   3首目、57歳の残りの1ヶ月を愛しむような歌。


   5首目、老いの入口に立った夫婦の情愛が滲む。「いつまでも一緒ではない」の

        認識がせつない。


   7首目、「君」に対する感謝の思い。ひとはひとによって生かされている

        ということなのだろう。 

   9首目、孫が生まれたということなのだが、表現上に工夫がなされている。

        自分を生んでくれた母親、血の系図を考えさせられる。




    

歌は極めて穏やかである。

いいかえれば静謐さを湛えている。

50代から60代へと、しっかりした歩みを窺わせる作品群であった。


 

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