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2016年3月11日 (金)

『那珂太郎 はかた随筆集』 福岡市文学館選書  海鳥社

 

         福岡にゆかりの文学のなかで、絶版や未刊行により、現在読むことが

         難しい作品について、福岡市文学館が選び、発行します。

                                       福岡市文学館選書  より

今迄には、『黒田如水』・『中野秀人作品集』が発行されている。

このたびの『那珂太郎 はかた随筆集』は、はかたに因む随筆が収められており、

どのページを開いても、たのしい。うれしい。






真っ先に読んだのは、「風景の記憶」。

西日本新聞に昭和55年11月13日に書いた「わがふるさと」には、


       ーー略 中洲の橋の東側のたもとの、上手にはブラジレイロの白い建物が

       あり、下手には福助足袋の電飾灯が聳え、そして西の対岸には水上公園の

       木の間がくれに音楽堂が望まれる。あの戦前の眺めであって、






だったが、その後の事実調査で「このような風景は現実には存在しなかった」ということ。

書いた那珂自身が「私には衝撃的なことであった」と綴る。そして、以下のように考察

している。





       人がある風景なり事柄なりを記憶として自分の内部に保存するに際しては、

       事実に対してつねになんらかの選択と編集をほどこすのではあるまいか。

       しかもそれがけつして意図的になされるわけではなく、無意識の裡に

       おのづからさうなされてしまふのであるゆゑに、自分の内部に蔵された

       かたちの記憶があくまで真実のものだと信じられ、外的事実の方がむしろ

       いかがはしいものに感じられる、といふことになる。






時間的誤差のもたらした「風景の記憶」。

そういえば、そんな経験がわたしにもある。

同じ場所と時間を共有しながらも、それでも、後年ふたりで話し合うと

辻褄が合わないことが…





それは兎も角として、那珂太郎は実にいい。

詩集『はかた』のⅢのあたまの部分なんて、好きだなぁ。






       中洲の橋のたもとにたたずみ目をつむると おい伊達得夫よ

       あのブラジレイロの玲瓏たるまぼろしが浮んでくるぢやないか

       ほら ぎんのさざなみに魚の刃が閃き草仮名をかいて鷗がかすめる

       ーー略



伊達得夫の十三回忌に第二次「ユリイカ」に発表した鎮魂の詩「はかた」。





       …

      <だつて得よ>と軽口たたかれた伊達得夫よ

      得だと見られた損な役をおまへは演じて 贅肉ひとつつけぬまま

      だれよりさきに死んぢまつてさ……でも

      ーー略






                              2015年11月6日発行 1500円+税







      

 

 

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