« 『ニッポンの猫』 岩合光昭    新潮文庫 | トップページ | 『モンキートレインに乗って 72』 昭和十九年の会アンソロジー »

2016年4月 8日 (金)

『川の音』 松永智子歌集  本阿弥書店

広島在住の著者の第六歌集。

平成15年から26年までの407首を収めている。

作者の所属は「地中海叢書882番」と奥付にあるので、「地中海」のひとだろう。


         あの雲のしたまでゆくといふひとの影がめつぽふかがやいてゐる

         竹の秋空はれわたり風の絶え竹の林に竹の葉の散る

         ひるふかく竹林に風しづもれり竹は竹なるかたちにゆれあふ

         雁わたる空の高さやかまつかのふかるるままに夕闇のくる

         猫一匹にんげんひとり寒の夜の地窖の闇のほとりめぐれば

         あかときの空はれわたり何もなし何もなきまま半月かたぶく

         角ひとつ曲がればすでになにもなしふかき闇なり路地の空なり

         にんげんのうしろ昏れつつ出雲路は神有月なりすすきかがやく

         臥してみる夢のつづきに茫茫と冬の川ありとほくひとすぢ

         江(がう)の川(がは)水豊かなり山のかげ時にしあはく雲の浮くみゆ


この一集はいさぎよいまでにコトガラは抑えられている。

従って作者が何歳くらいの人か、家族は?といった詮索をするのがハシタナイ

ような気持ちになってくる。

作者の精神(心情)は、歌のなかに込められてはいるが、それも「湿潤」と

いったものではない。





2首目・3首目はモチーフが似通っているが、連作として詠まれたものではない。

2首目は30ページ、3首目は146ページに収められていた。作者の住む廻りに竹林が

あるのか、それとも、竹林が好きなのだろう。2首共に「風」が添え物として表現

されている。リフレインが心地いい。





6首目・7首目も似たような素材だが、「何もなし何もなきまま」や「なにもなし」の

フレーズに、作者の深層心理を想像したりもしたのだが、よけいなことを考えず、

そのまま味わった方がよさそうだ。






最後の歌は「江(がう)の川(がは)」に惹かれて挙げた歌。

余談だが、わたしの実父(養子)の里が島根県邑智郡なので、

江の川はなつかしい川でもある。

20歳の頃、この川で自殺?しょうと、汽車に乗ったことを今でも覚えている。

あの高~い、長~い 吊り橋の上から飛び込むつもりだったのだが…



あの時死んでいたら今のわたしはいない。

なんだか、『川の音』を紹介するのが逸れてしまった。

にんげんに疲れたかたは是非このにんげんがあまり出てこない

『川の音』を読まれてみてはいかがでしょうか。



                      平成28年3月30日  2700円+税

« 『ニッポンの猫』 岩合光昭    新潮文庫 | トップページ | 『モンキートレインに乗って 72』 昭和十九年の会アンソロジー »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/2032066/64873728

この記事へのトラックバック一覧です: 『川の音』 松永智子歌集  本阿弥書店:

« 『ニッポンの猫』 岩合光昭    新潮文庫 | トップページ | 『モンキートレインに乗って 72』 昭和十九年の会アンソロジー »