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2016年5月 7日 (土)

『幾千の夜、昨日の月』 角田光代  角川文庫

「かつて私に夜はなかった」をはじめとして、24篇のエッセイが収められている。



二十代のときのバックパッカーだった異国の旅の<夜>のこと。

熊本の産山(うぶやま)村で思い知った<夜>のこと。

父や母を看取った病院での<夜>のこと。




角田光代の書く<夜>は、なまなまと息づいている。

そして、その<夜>の記憶の積み重ねが、現在の、今の、角田光代を

形成しているのだろう。






        どこにでも、二十四時間営業のコンビニエンスストアがあると思っている。

        そんなはずはないと頭でわかっているのに、わからなくなる。ーー略

        ーー略はじめてひとり暮らしをしたアパートのそばにはコンビニエンスストアが

        あり、おそらくここから私の堕落ははじまるのである。

                             「世界のどこも、うちの近所ではない」



        ひとりで駅に向かって歩き、ホームで夜が朝に変わる瞬間をじっと眺めて

        いたときのことを、ときどき私は思い出す。失恋決定直後の、どちらかと

        いえば最悪の日だったはずなのだけれど、あの光景を思い出すとちょっと

        たのもしい気持ちになる。「よっしゃ私はまだまだだいじょうぶ」と、何が

        だいじょうぶなんだかわからないながらも思うのである。そう思いたいが

        ために、あの日の光景を思い出すことも、ときおりある。

                                              「夜と恋」






        朝や昼には決してない孤独な落とし穴が、夜にはそこここに仕掛けて

        あるのだ。孤独を感じるだけなら、まだいい。孤独でもなんでも、味わえる

        ときにはきちんと味わっておいたほうがいいと私は思う。

                                            「孤独と電話」








24篇のエッセイのなかで、わたしがいちばん角田光代の角田光代らしい、

清潔さ、真摯さを、感じたのは、「祈る男」の章。

抄出しないので是非お読みになってほしい。







「今日ごはんをおいしく食べたように明日も食べられますように。

今日と同じく明日も何ごともなく終わりますように。」




                             解説 西加奈子   400円+税


                             

 

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