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2016年8月17日 (水)

歌集『晴れ・風あり』 花山多佳子  短歌研究社

短歌研究賞受賞作と受賞後第一作を含む作品の

2008年より2012年までの425首を収めている。




     柏市の線量高し 三月十四日「晴れ・風あり」と手帳に記しあり

タイトルは上記の歌から取られており、原発事故の後の作者の住む

柏市の線量のことがうたわれている。





前歌集の『木立ダリア』の時もそうであったが、作者のうたう人間(ことに家族)

たちの姿は、とてもユニークである。あえてユニークなところだけを

掬いあげてうたっているのかも知れないが、作者の手にかかると

独特の雰囲気(可笑しみ)を醸し出す。






     練り物の類(たぐひ)は得体の知れぬゆゑ口に入れぬと言ひし父はも

     この叔母のお下がりを着て育ちたる吾とぞ思ふベッドの傍へに

     真夜中に電話をすれば「仕事中」と言って切れたり息子の声で

     ほたるぶくろ群がり咲けばわが夫けばけばしいねと言ひつつ通る

     遺された服はサイズが合はぬなり叔母の服着て育ちしわれに

     白金のかがやきに目をうばはれて雪平鍋をまた一つ買ふ

     爪楊枝のはじめの一本抜かんとし集団的な抵抗に会ふ

     被災せし人は誰も見ず 鳥瞰的津波映像を見るはわれらのみにて

     森岡さん世に在るごとく『帶紅』はとどきぬ百日紅のはな終るころ

     こいつは馬鹿だ、と息子が言つて去りしよりパソコンはますます頑 

           なになる


恣意的な抄出になってしまったが、1首目の父の言いぐさが可笑しい。
でも、なんだかその言いぐさだって、共感する部分もあるような。




2首目と5首目は対になった歌だが、「お下りを着て育ちたる」とはいえ、
叔母さんが亡くなって遺された服はサイズが合わない。
子どもの頃と、大人になった作者では体形だって違うのだろう。



3首目の息子の電話の切りようは、息子を持つわが身にもひびく。
案じてメールを入れても「問題ないです」の10文字にも満たない言葉
なんだもん。




6首目の衝動買い、7首目の発見(?)は、これぞ、花山ワールドだと感嘆。
7首目の「集団的な抵抗」って、よく考えついたもんだと恐れ入る。



8首目の歌も、真理をいいあてている。
熊本地震の時もそうだったが、被災者はテレビを観る余裕なんてない。
第一、電気もつかないし、家は倒れているし……




9首目は、作者ならではの感慨もあろう。

『帶紅』は、平成23年森岡璋氏によって出版された。

その『帶紅』の作品も含めて、花山さんは『森岡貞香の秀歌』を

書き上げたのだ。森岡作品を丁寧に読み解いている一冊だった。






                     3000円+税  平成28年8月11日発行

 

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