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2016年9月12日 (月)

歌集『真珠層』 梅内美華子  短歌研究社 

2009年冬から2013年秋までの279首を収める「かりん」所属の

第六歌集。

第48回短歌研究賞「あぢさゐの夜」20首と、受賞後第一作の

「七つの鞍を置く馬」50首が収録されている。





歌集名の『真珠層』は、貝殻の内側にある光沢物質で、白が虹色に

見えるところである。--と、あとがきに記す。






   夕映えに滲みつつともる観覧車誰かを迎へに行きたき時間

   人工透析五年目の父蜜の香をほのかにたてて林檎剥きをり

   干し鰈一尾を分け合ふ父と母木の蔭に住むごとく静かに

   来る春にバカボンのパパの歳になる本当のやうな嘘のやうな時間(とき)

   ワッフルのやうな木組みの格子あり錦帯橋の弧のうらがはに

   汚染水、冷却水に原発は苦しみ透析に父は臥しをり

   蔦の葉のすきまにのぞく白壁のやうにしばらく眠つてゐたい

   忌まはしき海の景色を消すごとく要塞のごとき防波堤たつ

   打ち上げの花火のあとの硝煙の硬きにほひを川風はこぶ

   赤き玉とろりとできてこぼさなかつた泪のやうな線香花火






故郷の八戸から上京して「人工透析」の治療を続ける父、「同居して四年が

過ぎた」と、2首目の歌の詞書にある。

5首目の「ワッフルのやうな木組みの格子」は、作者の発見の眼、即ち

モノを把握する力を感じた。





親しくしていた人や友人の死を聞くことになったこの歌集の期間、自身の

〈生〉についても一層に思いを凝らしたことであろう。

7首目の「しばらく眠つてゐたい」には、人生の疲れを思わせるような重い

ものが澱む。

10首目の「こぼさなかつた泪」に作者の堪えている精神を感じてしまう。

偶々だが、取り上げた歌には、「ごとく」「ごとき」や「……のやうに」の

直喩の歌が半数にのぼった。その直喩の新鮮さと的確さに惹かれた。


                       2500円+税 平成28年9月16日発行

 

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