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2016年9月26日 (月)

歌集『蜻蛉文』 結城千賀子  現代短歌社

カバー表紙のセルリアンブルー ? の色が美しい。

よく見ると、とんぼ文(もん)が型押しされている。
(歌集の訓(よ)みは、「せいれいもん」であり、精霊(亡き人の魂)の音を重ねている、とのこと。)

そして、歌集タイトルと著者名のシルバーが光り、とても綺麗な表紙に

なっている。中の表紙はライトブルーだろうか。この組み合わせがとてもいい。

誰の装幀かしらとあちこち探したが、どこにも名前が記されて

いない。






  炉心溶融の原子炉抱き台風の兆す列島破船にも似て

  月光はまみづの青さひつたりと合はす双掌(もろて)に満つる冷たく

  「花は咲く」歌ふ心にいつはりはなけれど燕よそれはいつの日

  家ごとにふつうの暮しがありしこと「あのとき」までは此処(ここ)にこの地に

  ああここはみちのくなれば秋なれば天(そら)のま青を白鳥飛び来(く)

  当り前の暮し大切この夕べさくりさくりと切る春の葱

  息(こ)はふつと帰り来て家の飯を食ふ航海長き不在ののちに

  海外派遣より還り自死せし自衛官五十四人とぞ片隅の記事

  「戦争に行きたくない」は利己主義と言ひ放つあり現在(いま)はいつの世

  蜻蛉(せいれい)は風ある宙にとどまれりかそけき翅のひかり澄むまで



磯幾造主宰誌「表現」に入会したのは昭和55年、そして、編集発行責任者と

なられたのが平成22年の秋よりということを、著者略歴で知った。あとがきに

以下のように記されている。


   略ー東日本大震災が父亡き後の喪失感と重なった時期だったが、

   いわきを訪ねてその現実を目の当たりにした衝撃は忘れえない。

   更に戦後七十年を過ぎ、時代も大きな曲がり角にさしかかっている。ー

東日本大震災、ことに福島の原発事故は1首目の歌にもあるように、いま

なお、油断を許さない。いつ、どのような状況になるのかさえも想定出来難い

ものを孕んでいる。3首目の「花は咲く」の歌が流れた日々。しかし、ほんとう

に花の咲く日は来るのかと危ぶむ。

わたしたちは4首目や6首目の歌にあるように「ふつうの暮し」「当り前の暮し」

が、したいだけなのだ。


戦後70年が過ぎて、政治が世の中が一層に大きな曲がり角に来ている

ことを認識。この『蜻蛉紋』の著者、結城千賀子さんの歌に、その思いを

新たにした。




久々にホネのある歌を読んだような心地がした。






                        平成28年9月16日  2500円+税

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