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2016年10月 4日 (火)

歌集『いとほしき命』 赤松佳惠子  ながらみ書房

帯文で「星雲」の林田恒浩さんが「略ーー人生のほろ苦さも感じられて、

赤松さんのヒューマンな声をどの作品からも聞くことができる。」と書いて

いる。

赤松さんは、昭和32年に「中央線」に入会、その後「鑕(かなしき)」・「象」・

「白南風」を経て、現在は「星雲」の維持同人である。歌歴はほぼ60年。



歌集後半にいくに従って歌が自在になり、読んでいるとつい笑ってしまう

ような愉しい歌が出てくる。

愛猫二匹と夫君との暮し、その日常をごく自然体で詠まれている。







   ジャンケンポンあひこでホイをせし隙(ひま)に過ぎしがごとしこの一年は

   さくら若葉の陽の斑眩(ふくる)めく遊歩道あなたのことを忘れゐる道

   ADSLとか光 I P電話の勧めなりしんどい話もうせんといて

   真直ぐに帰つて来るのかと言ふ声は聞こえぬ振りして勤めに出づる

   エプロンのポケットに鉛筆なきときに浮かんで来るは必ず秀歌

   鬼を抱き女木島は男木島に添ひしとふ女性(によしやう)われには

   面白からず

   不穏なる二人の間を家猫は来たり行つたり行つたり来たり

   食事待つ男と甘ゆる猫のゐて今日も恃みにさるる仕合はせ

   猫のため引き戸を少し開けてます母の嫌ひし「バカの二寸開け」です

   夢に来し父母にまたまた聞かざりし棲むは浄土の何番地かや





まさに「ヒューマン」な歌ばかり。


5首目の歌など、人間の真理?をついているというか、独善的なところが

なんとも人間的である。


6首目の「面白からず」も納得。

8首目の「仕合はせ」は、熨斗をつけてお返ししたいような「仕合はせ」?

10首目の歌の「何番地」など訊ねて宅配便でも送るのかと思うけど、

そこがユニーク。





そして、この歌集の最後の章は「挽歌」となっている。

「平成二十七年十二月、夫逝く」と記す。




    支へ合ひたる数十年も瞬の業(わざ) 夫はこの世を越えてしまひぬ

    天界に喫煙場所のなきときは戻り来よ灰皿はある机の上に

    骨壺のなかにかしやかしや鳴りゐるをあなたと思へば涙とまらぬ


赤松さんの慟哭がきこえるようである。



                 

                    2600円+税   2016年7月30日発行

       

    

    

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