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2016年10月11日 (火)

乾正歌集『寒葵』 現代短歌社

著者は1992年に創刊された「あまだむ」に入会、その後2012年創刊の

「八雁」に入会している。

念のためお名前は、乾 正(いぬい まさ)さん、女性のかたである。

60歳から80歳まで20年間の作品500余首を収めている。


    赤四手(あかしで)の下枝に尾を振る尉鶲(じょうびたき)わが庭うちの

    しばしの憩い

    徳田白楊の歌の沁むらしいくたびも諳んず夫は座椅子に寄りて

    隣家の垣根の元の小判草小判重けりゃ私にください

    何をしても中途半端なわれなれど七十七歳あと二十年はある

    秋に実の赤く熟するガマズミはかわゆき白き小花つけたり

    背中には夫に薬をていねいに塗ってもらってありがたきかな

    草原(くさはら)にわが摘みて来しチヂミザサ壜に根の出づ生きた力






庭の広い家に住んでいたこともあって、さまざまな樹木の名前が出て来る。

そして、それらの木々の熟した実を求めて、鳥たちがやって来る。

作歌するにはとても良い環境にいらした訳だが、後年その家を引払い、

ケアマンションに夫婦で移り住む。

申しおくれたが、正さんの夫君も歌詠みであり、このたびの『寒葵』は、

『乾喜八郎歌集』と対になって一つの函に収められている。さしずめ

比翼の二冊の歌集となっている。以下はその『乾喜八郎歌集』より。






    上の山の茂吉のみ墓のその脇にいちゐの木あり赤き実をつく

    結婚をせしころの妻やさしかりき七十歳(ななそぢ)こえて今はこはもの

    メグスリの木の種三つとつてある桜が咲いたらまくことにした


なお、この歌集の「後記に代えて」は妻である正さんが記している。

60年間を共に過ごした夫の喜八郎さんが亡くなられたのである。





   ーー略 もうじき夫が亡くなって二年が来る。毎日のように登った

   裏山にいま、赤や白の梅の花が満開だ。六十年という結婚生活も

   終り、私も八十五歳になった。まだ毎日泣いている。いつまで続くのか。

                『乾喜八郎歌集』 後記に代えて より 


「あまだむ」の歌会に夫婦そろって参加し、カルチャー教室でも毎週机を

並べ、みんなと八ヶ岳に一泊の吟行旅行をしたお二人。

そんなことを思うと、夫婦っていいなと思う。

同じものを見て、同じように短歌をこころざしていた二人。

きっと充実した日々だったことだろう。






                   跋文 阿木津英

                   平成28年7月22日発行  2500円+税

 

 

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