« 歌集『いとほしき命』 赤松佳惠子  ながらみ書房 | トップページ | お絵描き虫(エカキムシ・ハモグリバエ) »

2016年10月 5日 (水)

歌集『紛らしきたる』 松井 滿   本阿弥書店

北九州在住の松井滿さんの第七歌集。

1ページ4首組の全142ページ。ソフトカバーの仕様である。

巻末には「気晴らしの短歌」の歌論を収めている。

松井さんは、田井安曇氏の「綱手」に創刊より参加。

評論集に『田井安曇を読む』がある。




  われはなぜここに居るのかさしあたり生くるに何の障りはあらねど

  つぶやきや断言いとど脂乗りくこの頃の岡井隆氏の歌

  兄は父母(ふも)の神童なりき引き比べて父に敲かれゐし悪童(わるがき) 

  吾は

  頭ひかるわれを誘はんをみななど居らね留守番に甘んじてゐよ

  国債の発行にしのぐ財制下われに老後の近づかむとす

  石田比呂志の訃報に驚くよりあやに彼のぴんぴんころりを羨しむ

  看取りを頼む弔(はぶ)りは俺がするといふ長男はいつも好いとこ取りなり

  夫婦として老後を和(のど)に生きゆかむ夢と現(うつつ)の迫間に揺れて

  まだ強き夕照りのなか麦藁帽被れる禿が庭木に水遣る

  赤チシャの苗を植ゑたりサラダなど妻と楽しむためのよすがに




〈生活即短歌〉といったことを思い出させるような歌の数々。

地に足の着いた人間の暮らしということを考える。



しかし、巻末の歌論に出てくる哲学者・パスカルの著書『パンセ』がある

ように、なかなかの理論家でもあり、哲学的なのは1首目の歌からも察せ

られる。



3首目の歌の兄は、松井義弘氏(歌人「綱手」「地脈」)で幼い頃より

兄の方が賢兄として、父母に愛されていたのだろうか。

(この男兄弟という関係はどこの家でも微妙みたいである。)




4首目の歌の前の歌には、妻が韓流ドラマロケ地に旅行したので、

その時の留守番の思いであろう。なんとも可笑味のある歌。




6首目は、2011年2月24日に急逝した石田比呂志さんのことをうたっている。

亡くなったという驚きよりも、「ぴんぴんころり」を羨ましがっている。

石田さんは脳内出血で享年80歳だった。床についてはいなかったが、心臓の

手術をしたりと晩年はそう健康ともいえなかったようだが……



9首目は、他人のことではなく、たぶん自己を戯謔している。




そして、8・10首目は、ようやく(?)糟糠の妻に心が戻ったような安らかさを

感じる。歌詠みはなかなか家庭を大事にしない、というより、大事にしたくても

物理的に大事にする時間が足りなかったりするんだよね。

                     2200円+税  平成28年9月20日初版発行


« 歌集『いとほしき命』 赤松佳惠子  ながらみ書房 | トップページ | お絵描き虫(エカキムシ・ハモグリバエ) »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/2032066/67800347

この記事へのトラックバック一覧です: 歌集『紛らしきたる』 松井 滿   本阿弥書店:

« 歌集『いとほしき命』 赤松佳惠子  ながらみ書房 | トップページ | お絵描き虫(エカキムシ・ハモグリバエ) »