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2016年10月29日 (土)

内藤香代子歌集『ぬくぬく』

表現誌「歩行」誌友の内藤香代子さんのはじめての歌集である。

『ぬくぬく』は変形版であり、絵本のような趣がある。

タイトルからして絵本を彷彿とさせる。それもそうだ、天野祐吉の絵本

『ぬくぬく』から命名されている。





そして、「歩行」といえば、福岡県八女市黒木に発行所があり、発行者は

内藤賢司氏である。即ち、香代子さんは内藤氏の妻。

2012年に内藤氏は第4歌集『靴が鳴る』を上梓している。

アメリカで生まれ、日本で一緒に暮らす孫の4年間を見つめた愛情たっぷりの

ほのぼのとした集であった。




さて、香代子さんの『ぬくぬく』には、どんなぬくぬくが……





      裸婦像のかたちに山を横たえて光を降らす天心の月

      ソラマメの花はいくらかひょうきんで畑の隅より我を見つめる

      冬空の青どこまでも頼りなしどこかに何かを忘れ来しごと

      遺影と袈裟と白装束はここに在るタンスの前にて義母は言うなり

      産道を通ることなく生まれたる空(ソラ)よ生きゆく準備はいいか

      いつまでも何が哀しゅうて泣く海(カイ)かその魂を懐に抱く

      父母(ちちはは)の遺影の下に目覚めれば我在ることを喜びとする

      在ることを確かむるごと月の夜は眠れる君の手を取りてみる

      「ぬくぬく」の絵本で育ちし娘は三十六歳 天野祐吉、秋の日に逝く

      踏み入れば果てもなくただ球ばかり生の巡りの彌生の世界
                            (草間彌生展を見て)




2首目、ソラマメの花のかたちの黒点が、目玉のようでもある。

     そのソラマメの花から見られているように感じるのだ。



4首目、死期を悟った義母がかねてから用意していたものを嫁である

     作者に告げる。告げられて作者は息の詰まるような思いをしたこと

     だろう。作者の心の中を表に出さずに即物的に詠んでいる。



5首目は、帝王切開で生まれた「空(ソラ)」君であろうか。下の句がいい。



8首目、相聞歌とも呼べそうだ。傍らに眠るひとの手を取るしぐさのなんと

     艶やかなことか、否、人間の〈生〉のありようを確かめているみたい

     でもある。



9首目はタイトルになった歌で、たぶん1980年代の『こどものとも』の絵本で

    育った娘さんだろう。その子が36歳になり、その絵本の作者である

    天野祐吉氏は亡くなってしまったのである。

    (2013年10月20日に80歳で天野祐吉氏は亡くなられている。)



    

そして、10首目の歌は昨日の草間彌生氏の文化勲章受賞をたちどころに

呼び起こした。草間彌生ファンがここにも居ると思い、嬉しくなった。他にも

「点点は彌生の呼吸、集まりてざわめきており方形の中」とも、うたわれて

いる。

草間彌生氏は、歌人の琴線に触れてくる芸術家ともいえよう。




                              2016年10月1日発行

 

      

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