« ワンダーコアと『マイブック』 | トップページ | 佐賀バルーンフェスタへ »

2016年11月 1日 (火)

歌集『舟はゆりかご』 小黒世茂 本阿弥書店

2012年後半から2016年前半の作品を収める。




タイトルは「実母には抱かれしこと継母には背負はれしこと 舟はゆりかご」

から取られている。この歌のある章のエッセイに、三人姉妹の末っ子で

生まれた作者。父親は「女しかよう生まんのか」と母をなじった。

と書かれてあり、「お蔭で私には性別不明の名がつけられた」とある。

そして、「父に愛想が尽きていた母は、一歳の私を置いて家を出た」とも

書かれている。

    国の名に穀物実るめでたさの粟は阿波国、黍は吉備国

    夕焼けのあとの朝焼け 瀬戸内は黒曜石に似たるしづけさ

    いつかまた逢へるだらうか母さんに黄金ふぶきの山吹の墓地

    わが顔をなつかしさうに見る姑よ昨日も一昨日(をととひ)も隣りに

    ゐたのに

    寝たるままカプセル風呂に入るときコスモス畑に姑はあそぶよ

    ひとりづつ老人ひろひ軒下をぺんぎんの絵の小型バスゆく

    急(せ)くことの何もなき姉水差しに活けたる桃と今日はともだち

    夕ぐれは誰かを探してこんちきちんどこまで行つたかこんちきちん

    百本のはなびら浄土にあゆみ入る言葉に汚れしわが身のために

    吉野にはあの世この世を縫ひあはす針目のやうな蝶の道あり





この歌集の期間、作者は「古代より風土と共に生きてきた日本人の源流を

探索する歩みは続く」(帯文より)と、あるように、日本のあちこちに出掛け

ている。作者を旅に駆り立てるものは何なのか、日本人の源流を探索する

その熱意、それがこころなし伝わってくるようでもある。





姑は九十歳を過ぎ、車椅子生活。姉は八十歳を過ぎて独居生活をしている。

前歌集の『やつとこどつこ』の勢いの良さから、なんだか生きること、老いに

向かう巡りの者たちへ寄せる哀隣の情が色濃い集となっている。





8首目の「こんちきちん」が悲しい。

9首目の「言葉に汚れし」と捉える心の在り処。

    言葉によって癒されない作者の心が息づいている。






                       平成28年10月15日 2800円+税

 

« ワンダーコアと『マイブック』 | トップページ | 佐賀バルーンフェスタへ »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/2032066/68205064

この記事へのトラックバック一覧です: 歌集『舟はゆりかご』 小黒世茂 本阿弥書店:

« ワンダーコアと『マイブック』 | トップページ | 佐賀バルーンフェスタへ »