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2016年11月 9日 (水)

創刊五周年第三〇号記念八雁賞受賞作 「麦の一粒」 工藤 貴響

「八雁」2016年11月号は、創刊五周年記念特集号になっている。

170ページ超の大冊で、なかなか読みごたえがある。

一つには、タイトルにも記したように「八雁賞」の発表が掲載されている。

この受賞作を読むと、「八雁」の底力というか、実力のほどを思い知る。





    

        受賞作  

                麦の一粒      工藤 貴響


    両(もろ)の手に包む蓮(はちす)のやわらかき蕾は肉のごとくに緊まる

    蓮池の夕闇せまるそのまなか閉じ遅れたる一輪が見ゆ

    お互いの親のことなど話しつつ樺太シシャモの銀(しろがね)食いき

    大きかばん肩より提げて階段の夏の日差しを降りゆく君は

    〈文学〉の名称のこる大学へ移り入りゆく而立のすぎて

    絶ちゆきし生あんのんとわが裡に住まえるごとしこの七年は

    地に落ちて死なざる麦の一粒のごとくに床(ゆか)にからだ伸べたり

    道のべの蔓草ひと群吹きあぐる地下より生るるぬるき空気は

    熱かえす舗装路の上に散りぼえる百日紅の花くるしくないのか

    素麺の束投げられし鍋のなか湧き来る白き湯をおそれたり







      身近な場所からグローバル化した現代の深刻な問題に

      触れる若者らしい抒情歌。       阿木津 英 評

      

      文学として意識的に自分の世界を創っていこうという

      意欲を感じさせる作品である。     高橋 則子 評

 

      全体として高水準の作品を揃え、さらに発展の可能性が

      感じられることから、確信をもって一位に推した

                              島田 幸典 評








十月からフランスの大学院に通うという工藤貴響。「受賞のことば」には

「日本語から離れるタイミングで八雁賞をいただいたのも、短歌との縁かも

しれません」と綴られている。ヨーロッパの地で更に見聞を広め、より思索的

になってゆくのではないだろうか。



この号の特集は「『黄鳥』『草笛』『unknown』『駅程』の四歌集における

〈われ〉についての考察」の長いテーマ。

麻井さほ、遠藤知恵子、工藤貴響らが力のこもった評論を書いている。

このテーマの企画の斬新さに拍手を送りたい。






一人が一歌集ずつ考察するのではなく、各自が四歌集を並べて考察する

のは大変だったと思う。しかし、それぞれの書き手が豊富な知識を

手がかりに、思索をより深めていたことが心に残った。






創刊五周年、おめでとうございます。

「『三年経てば』『三年経てば』と念じつつ来て、もう五周年」という後記の

言葉は実感でしょうね。


      天翔(あまか)くるあれはかりがね水茎の無沙汰の詫びの文を

      銜(くわ)えて        石田比呂志遺詠「冬湖」三十首より



 

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