短歌同人誌「穀物」 第3号
創刊号が出たのが2014年11月だから、確実に1年に1冊の刊行である。
同人数も創刊号より増減がなく、変わらず8名というのは、この変化の
激しい時代にあって稀有なことではあるまいか。
創刊号の47ページから、この3号は一挙に87ページの大幅な増ページに
なっている。1人に換算すれば10ページ強。( 恵まれている。笑 )
今号は26ページに及ぶ座談会を掲載している。
その座談会が総合誌などの対談や鼎談に匹敵するくらいに面白い。
その面白さを伝えたいのだが、まず、作品の方から紹介したい。
大作(39首・46首・50首)を出している川野芽生・濵松哲朗・廣野翔一・
山階基の4名の濱松を除く3名の作品は、第62回角川短歌賞に応募した
時のものということが判明(笑)。
角川短歌賞発表号の2016年11月号『短歌』を開く。
まどろみに旗を 山階 基 未来・穀物・はならび
アヴァロンへ 川野芽生 本郷短歌会・穀物
虹を出す手品 廣野翔一 塔・穀物
その時のタイトルのままの掲載だが、山階は11首削り、川野は4首
削っていることが判る。
このなかのだれも風力発電の羽根にさわったことはないのに
抱きあう胸のあいだをひとすじに抜け落ちていく感じがこわい
まどろみに旗を 山階 基
ジョン・エヴァレット・ミレイの没年書き入れて死者ばかり
この稿を出入りす
幻獣のかたちを都市にさらしつつわが呼ぶまではそこに
在れ、雲 アヴァロンへ 川野芽生
点検の前に残水を吐かせおりうつ伏せの後逆立ちをさせ
生産が上がらぬことがちらつくな炬燵で不意に寝る間際にも
虹を出す手品未だに持たざれば風吹く街を眺めるばかり
虹を出す手品 廣野翔一
からみつく蔦のごとくにわが生を此処に這はせり 此処しか
無くて
ちがふ、何かが違ふと常に思ひつつ面伏せて門をくぐり抜けたり
〈富める人とラザロ〉の五つの異版
濱松哲朗
とりあえず、大作の4名の作品から。
山階の1首目はいいさしの言葉で終わっている。「さわったことはないのに」
の後に続く言葉が消えて、読者は宙ぶらりんになってしまう ? そこを
狙ったともいえるのだが。
2首目は、性愛に溺れきれない?純な心?が感じられる。
川野の歌はパスしたいくらいに難しい。
実体の無い、不可視の世界を詠んでいるようなとりとめのなさを感じる。
わたしには〈知の世界〉が視えない。
廣野の歌は、歌というより先ず角川短歌賞の選考会での小池光の
下記の言葉が強烈に残っている。
ーー略〈風俗に行かざることをなんとなく一線として我は死守する〉
とてもよくわかります。頑張ってください。(笑)。こういう率直さは
読ませる。
それかあらぬか(笑)小池光は、廣野に1票入れていた。
この50首は、労働者の悲哀が湿り気を帯びずにさらりとうたわれていて、
わたしは良いと思った。
2首目、3首目に、現実に対する焦りのようなものが伝わってくる。
若い人の〈労働の歌〉が少ないから、この路線で執ねく突き進んでほしい。
濱松の歌も、廣野の路線に近いが、濱松の方は現実の生活が見え
難い。社会に同化できないような苛立ちは十分伝わってくる。
ここまで、書いて時間切れ。
座談会のことにも触れたかったが、スペースが尽きてしまった。
(頓珍漢な妄評、ご海容ください。)
つづく……
« 歌集『橋梁』 糸川 雅子 飯塚書店 | トップページ | 短歌同人誌「穀物」 第3号 つづき »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 志垣澄幸歌集『黄金の蕨』 青磁社(2018.04.22)
- 歌集『首長竜のゆふやけ』 藪内眞由美 北羊館(2018.03.26)
- 「おお雲雀よ」 坂元 元子(故人) 合同歌集 「陽だまり」より(2018.04.14)
- 合同歌集『陽だまり』 短歌サークル陽だまり(2018.04.10)
- 歌集『いらっしゃい』 山川 藍 角川書店(2018.04.09)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/2032066/69014598
この記事へのトラックバック一覧です: 短歌同人誌「穀物」 第3号:
コメント