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2016年12月26日 (月)

『渾沌の鬱』 馬場あき子歌集  砂子屋書房

「現代三十六歌仙 28」で、著者にとっては第26歌集となる。




        若い日に読んだ『荘子』の中に出てくる渾沌の逸話が

        いまも忘れず心に残っている。しかもだんだん身にし

        みるものがある。(中略)この紀元前四世紀の逸話には、

        そのまま現代の危機も潜んでいそうな凄さがある。

                          (本書「あとがき」より)




     鬱とした薀気ふくらます森ありてこのままでいいと言つてはゐない

     「死ね」と叫びてゆくデモ許しゐる国に少年は「死ね」といたぶられ

     死ぬ

     魂はけふすすき野の空にゐたりしがうつし身いわし焼きをりわれは

     うちのひと今日は夕餉をつくるといふ豆腐もあるしまづはあんしん

     うそのやうに小高賢すつとゐなくなり雪しんしんと本所両国

     言はない方がいいのに言つてしまふことさはやかな秋の日のわが

     病(やまひ)

     三十七年上つて下りて柿生坂右も左も家となりたり

     昭和とは何であつたか国家とは何を強(し)ひたか  焼けた桜よ

     この花やアポロウスバシロ蝶が吻(くちづ)くるマンネングサです

     白い花です

     強行は政治の奥儀ほんたうにやるつもりなのだほのか笑つて







1首目、「薀気ふくらます森」は、作者の内部を仮託しているようでもある。

6首目の「言はない方がいいのに言つてしまふ」のは、作者の精神

    即ち堪え性の無さであり、いい加減がいやなのだ。保身の術を

    心得ていれば「言はない」のだが、それが出来ない。

     (そこがまた、人間的でもある所以。)






「物語読み」をしてしまう癖(へき)がわたしにあることは否めないが、

それにしても〈馬場あき子〉の「わたくし語り」が、歌の奥行を醸している

ことには、間違いない。





そう、この歌集にはいろいろなものが詰まっている。





そのいろいろなもの全てに〈馬場あき子〉という歌人の〈生〉が滲み出ている。

3首目の「いわし焼きをり」、4首目の「豆腐もあるしまづはあんしん」と

「うちのひと」を思い遣る心。生活の、日常の、ちいさなことにも心を配る。





そして、何より8首目、10首目のような時代とは、国家とは、という怜悧な

視線を持ち続けていること。社会にまっすぐな目を向けて立っていること。


来年1月には89歳になられる馬場あき子さん。

馬場さんが「マンネングサです白い花です」と涼やかにうたうと、

なんだかほほえましくもなる。









cat     cat

サンタさんから届いた『渾沌の鬱』。

うれしくて、うれしくて、夢のようだった。
(サンタさんが、12月14日のブログを読んでくれていたのだった。)

思いが叶うのはなんと素敵なことか。

2016年のクリスマスは忘れ難いものになった。

これから再読・三読・なんどもなんども開くことだろう。

サンタさん、ありがとう !  !


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