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2017年2月20日 (月)

『父の生きる』 伊藤比呂美  光文社文庫

詩人・伊藤比呂美が日本とカリフォルニアとを往復しながら、

父親の遠距離介護をしたノンフィクションの物語である。

2009年3月から2012年5月5日までが、日記形式で綴られている。

介護の問題はますます深刻になり、誰もがいつか通る道でもある。

介護をする立場が、いつかされる立場になるのも現実なのだ。

介護を体験することによって、自分自身の未知の<死>についても

考えさせられたりもする。

この書は実の父親であり、娘ということで、その関係が一層くきやかに、

<素>の姿で、語られている。



        略ーーところがそのとき、頼まれていたおせんべいを買い忘れ 

        たことに気がついた。「ごめん、ごめん」と言うや、父は声を荒げ

        げて怒り出し、「甘いものばっかりで、飽きちゃんうだ」「年寄り

        は食べることしか楽しみがないんだ」などと。「だっておとうさ

        ん、あたし仕事があるし」と抗弁すると、「そんなら来てくれなくて

        もいいよっ」と吐き捨てたーー略     2011年11月17日(木) 


 




        略ーー「強盗でも入って殺してくれたらいいんだけど、来てくん

        ないからさ、待ってるしかないんだ。他力本願だ」とご飯粒をこ

        ぼすように言いつづけた。「ま、あんたももう九十のおやじを持

        ってると覚悟しといてよ。六十や七十じゃないんだからさ、おれ

        は」                      2011年11月18日(金)






 

カリフォルニアに住む娘である著者は、日本の熊本に住む父親のため1年に

何度も帰国する。そばに居てやれない時は電話をかける。その電話の受け

応えが面白くもあり、せつなくもある。

親を送るということを全身全霊で受け止めている著者の姿に何度も涙しなが

ら、読み終えた。




   

       人がひとり死ねずにいる。それを見守ろうとしている。いつか死

       ぬ。それまで生きる。それをただ見守るだけである。でも重たい。

       人ひとり死ぬのを見守るには、生きている人ひとり分の力がいる

       ようだ。                    2012年4月1日(日)







この書の終わりの方に書かれている次の言葉は、しみじみと身に沁む。

「父が死んだ後、数か月にわたって、私は悔いてばかりいた。あのときもっと

そばにいてやれば、もっと熊本に帰ってやれば、と」







                              2016年6月20日初版1刷発行  560円+税 




 

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琅玕忌のために18日に熊本に行った。

その時、熊本城周遊バス「しろめぐりん」に乗車。

熊本で最も古い書肆の「長崎次郎書店」を訪れた。

森鷗外の『小倉日記伝』の中で「書肆の主人、長崎次郎を訪う」と

書かれている明治7年創業の書肆である。




平成26年夏に内装・品揃えを一新してあり、外観はレトロモダンな二階建て。

落ち着いた雰囲気の「長崎次郎喫茶室」が2階に併設されている。

新町電停から写真を撮ると、全景が入ってうれしい。



折角来たので熊本ゆかりの人の著書をということで、伊藤比呂美の

『父の生きる』を購入。ここの文庫カバーの「JIRO」のロゴがまた実にいい。





伊藤比呂美といえば、もう30年も前になるけど、福岡の赤坂のカフェで

開かれた高橋睦郎との2人の詩の朗読会に行ったことを思い出した。

あの頃は、お二人とも溌剌としていた。



わたし自身もまだ若かったし(笑)、介護の問題など遠い遠~いことで、

関心もなかったような齢(よわい)であったことよ。





角川の『短歌』2017年2月号の巻頭作品「老老行」(高橋睦郎)を読んで、

過ぎていった歳月を思わざるを得なかった。

 

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