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2017年6月 5日 (月)

『岩田正の歌』 田村広志  ながらみ書房

          これは私自身のために私に書いた本なのである。

          書き継ぐことによって、…略

          私自身が療養の鬱陶しさからいくぶん立ち直れたのだった。

この書の「あとがき」の言葉の一部であるが、「療養の鬱陶しさ」を書くことに

よって乗り越えた著者の強靭な精神を思う。その病名が「心筋梗塞」で、

そのための「心筋バイパス手術」などをしたことを思うと、尚更である。



『岩田正の歌』というタイトルであるが、この書はその妻君である馬場あき子

の歌への出発はもとより、その仕事(短歌)や「かりん」のことなど、真近で

見聞したことなどが、細部にわたって書かれている。







なかでも、馬場あき子脚本「般若由来記」を上演した時のことなど、ユーモア

たっぷりに綴られている。その時の田村氏は定時制の生徒だったというのも

いかに長く岩田・馬場の身近にいたかを物語っている。



         イヴ・モンタンの枯葉愛して三十年妻を愛して三十五年

                            『郷心譜』 岩田 正



岩田正の代表歌ともいえる一首だが、この田村氏の鑑賞は実に微に入り、

細をうがつ。この一首は後半の「主題による作品鑑賞」でも再び採り上げ

鑑賞している。そして、イブ・モンタンをうたった歌も引用している。

         世代ちかく生きしと思ひ親しみしイヴ・モンタンはわれを知ら 

         ざり                 『郷心譜』  岩田 正

         イヴ・モンタン唄ひし枯葉晩秋の柿生の里の丘に降るなり

                               同

         イブ・モンタン老いて恋人持ちしとふ「枯葉」は陽気さびしく

         陽気                 『背後の川』 岩田 正



「論とも評伝ともつかない一冊で…」と、あとがきに書いている。しかし、

どうしてどうして、岩田正の「土俗論」の考察、馬場あき子の『鬼の研究』に

辿りつく前後のことなど、短歌史としても貴重なことが綿密に書かれている。






読みだしたら止まらなくなって、のめり込んで読了。

お薦めの一冊である。

                       2017年5月10日発行  2500円+税

            

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