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2017年6月 7日 (水)

歌集『晩夏の海』 岩崎堯子 六花書林

2009年に「短歌人」に入会した著者の第一歌集。

小池光の「これからの日を」の跋文が収められている。





     片胸となりし姉の前に立ち「行くわよ」と言ひて湯殿に入りつ

     けふこそは逸脱せむと五万円財布に入れて家を出でしが

     濡れたシャツ脱ぐときのやうな終りかた たまにはこんな一日もある

     なにがなし怖ろしかりき母の部屋の枕にのこる深きくぼみが

     孤独死でない死がこの世にあるやうな言ひかた 月下美人が咲きぬ

     電線に切らるる月はせつなくて空き地へ走るこよひ十五夜

     念のためと言はれ膠原病の検査受く 少しづつ病気にしてゆく病院

     とある朝 あるではないか軒下にシャンデリアのごとき足長蜂(あしな

     が)の巣が

     カサブランカ買ひて帰りぬ戦争がたうたうできる国になりたり

     たんぽぽぐみの行進はじまり孫がくる見たことのない怖い顔して



1首目、「片胸となりし姉」は、乳がんの手術で片方の胸をなくした姉であろう。

     その姉と温泉へ。ためらう姉をせきたてるように、湯殿に「行くわよ」と

     促す。妹(作者)の力強いことばは姉を動かす。

2首目、結句の「家を出でしが」のいいさしの言葉がその日の作者の行動を提

     示している。逸脱?できなかったんだね。



3首目、濡れたシャツを1日着ていたような日だったんだろうか。まぁ、そんな日

     もたまにはあるさ、と。




4首目、「深きくぼみ」に母の病の重さと、母の日日の苦痛をも感じとったのだ

     ろうか。せつない歌だ。

5首目、下の句の句跨りから、「月下美人が咲きぬ」の転換。上句に対しての

     いいようのない腹立ちを少しく緩和するような月下美人の出しかたで

    ある。



6首目、夜空を仰ぐのはわたしも好きだが、街の中ではマンションの林立やモ

     ノで遮られて儘ならないことが多い。「電線に切らるる」十五夜はせつ

     ないのだ。「空き地へ走る」。わたしも走る(笑)。



7首目、検査をすると、どこかしら、何かしらに引っかかることがある。早期発

    見ということが良いこともあるけど、病気にされてしまうような気もしな

    いでもない、思い。


8首目、まさかわが家に足長蜂の巣が。ありえないことと思いつつ、これが現

     実なのだ、おお、コワ。


9首目、日本の国は「戦争放棄」を掲げ、それを長年保ち続けてきたのではな

     いだろうか。それなのに、「戦争がたうたうできる国」になってしまった

     のだ。


10首目、いつも見る孫のやんちゃなひょうきんな顔でなく、「怖い顔」。他人の

     ように前を通り過ぎていく。やんぬるかな、と思いつつ、これは、孫の

     成長の証。

いずれの歌も「そうだ、そうだ」と納得できる。そして、作者の心根の深さ、

あたたかさがじわじわと伝わってくる。








                     2017年5月26日発行  2300円+税別






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昨日、福岡は梅雨入りしたので、今日は出掛けるのにいちばんお気に入りの

傘を差して出掛けた。

ところが、久留米で下車して電車のドアが閉まったとたんに手許に傘が

ないことに気付いた。「え、傘がない。わたしの傘がない。」





狼狽えてしまった。すぐに久留米駅の改札口の駅員さんに事情を話す。

その電車は荒尾が終点。荒尾に取りに行くか、着払いで送って貰う算段を

した。そして、ダイソーに行き、当座の傘を購入。

ところが、ケイタイに電話があり、荒尾で降ろすのを忘れたので、博多駅まで

傘は乗せますとのこと。





教室が終って博多駅まで直行。

ようやく、わたしの手許に傘が戻った。

(このわたしの傘はあろうことか、久留米から熊本の荒尾まで740円の

無賃乗車。そして、荒尾駅から博多駅まで1470円の、合わせて2210円の

無賃乗車なのかえ。笑)




帰りの電車では傘を2本提げて、忘れないように、居眠りしないようにした。

やれやれの梅雨の1日だった。

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