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2017年9月14日 (木)

歌集『書架をへだてて』 本間温子 青磁社

「塔」所属の第一歌集。

1999年10月から17年間の作品およそ2000首の中から473首を選び、

ほぼ編年体に収めている。






    戦争を知らない子らに戦争しか知らない子らに初日は差せる

    惑星が並んでいるよと夫が呼ぶ金、火、土星はなれて木星

    越後より届きし手紙二百余通母の歳月われらのさいげつ

    早朝の新幹線に乗りてゆくひと日死んでる母に会うため

    湯湯婆の湯はゆたんぽのかたちしてわれの足元あたためている

    図書館の書庫にいちにち感情を捨てて蔵書の除籍するなり

    三年を施設に暮らす君の家スモークツリーがふわふわ咲いて

    赤じそに赤き花咲き青じそに白き花咲く秋の日のなか

    曼殊沙華畦に遠見ゆページより顔を上げればまた曼殊沙華

    昨夜(きぞ)の訃を二十七戸に配りおり家並みうつる植田にそいて






町の図書館に25年勤め、その時の歌「本を選る父に抱かれしみどり児と

笑みかわしおり書架をへだてて」より、歌集題としている。





6首目の歌など、図書館の仕事「蔵書の除籍」というききなれない言葉が

出てくる。おそらく本を整理して処分するのであろう。

3首目は、義母即ち姑さんのことなのだが、お互いに細やかなやり取りが

あったに違いない。「母の歳月」はおのずと作者家族の歳月であり、培われて

きた交情を想像させられる。


7首目は「スモークツリー」という植物名が作品の中でうまく機能している。

煙の花のように見えるスモークツリーは別名、「煙の木」とも「霞の木」とも

呼ばれている。施設に暮らすため、空家になった家の庭に咲くスモーク

ツリーは、ふわふわと頼りない。



9首目の歌は、ちょうど曼殊沙華の咲く頃なので取り上げた。「ページより

顔を上げれば」の動作の描写が良い。


10首目、村の27戸の家々にお知らせする訃報。下の句の「家並うつる

植田にそいて」に田園風景が浮かんでくる。

歌集全体から受ける印象は、跋文で池本一郎氏が書くように「真実を生きる」

作者の生活が淡々とうたわれている。生活をだいじにして自らの立ち位置が

しっかりしている。


1首目のような社会的視野のある歌にも惹かれた。


装幀がこの歌集の温かさと知性にマッチしていて好感を抱いた。


                    2017年8月26日   2500円+税

 

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