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2017年9月 2日 (土)

『世界黄昏』 久々湊盈子歌集  砂子屋書房

2012年から、2016年まで約5年間の作品から500首ほどを

自選し、ほぼ制作順に収めている。

著者の第9歌集。

なお、歌集のタイトルの読みは、『世界黄昏(せかいこうこん)』。

    修理不能とそっけなく言われて返されぬ姉の手に二十年ありたる時計

    虎杖(いたどり)を嚙めばいきなり少女期のわれに戻りて泣きたくなりぬ

    アンダルシアの古城の庭に鈴なりの非時香菓(かくのこのみ)は酸っぱ

    く苦(にが)い

    「蜜」というおみな現われ堅物のウチの亭主の目尻を下げる

    茱萸坂(ぐみざか)をのぼればひそと立ちている小高賢に今日も会える

    気がする

    どのような成り行きにてもわたくしは兵士の母と呼ばれたくない

    まだ緑(あお)き四照花(やまぼうし)五月の日にゆれていつでも今日が

    いちばん若い

    檄も来ずまして艶書(えんしょ)も来ずなりてわが身ひとつに絢爛と秋

    狂うにも遅すぎる齢 帯締めをきつく結びてひとと逢うなり

    いそいそと出でゆく夫を見送りてわれもいそいそ三日の独居

①首目は、姉の形見となった腕時計を修理に出したのだろう。しかし、

 やんぬるかな修理が出来ないと言われてしまったのだ。



②首目は、戦後の食糧難の時代が想起される。学校の帰りに虎杖を嚙んだ

 ことなど思い出したのか ?




③首目は、スペインの旅で見かける光景。オレンジの街路樹が所によっては

  ある。誰も盗まないし、取らないのは、酸っぱくて苦いから。

  (街路樹のオレンジは観賞用と添乗員さんが云ってた。)

 

④首目は、女性の名前の「蜜」だろう。姓名が2文字のあのひと。

  大人の色気があるとかで、男性ファンが多いらしい。

  堅物の亭主といえど、目尻が下がる(笑)


⑤首目は、茱萸坂といえば小高賢というくらい高名になった。当時の

 デモを思い出し、小高賢を偲ぶ。


そして、⑥首目の歌は、この『世界黄昏』の中でわたしの最も好きな歌。

きっぱりとした下の句のことば。

「濁声(だみごえ)に大鴉は鳴けり唱和して二羽また三羽世界黄昏(こうこん)」

の歌から歌集題はとられ、世界は夜明け前とは程遠く、黄昏がますます深く

なっていく気配がしている。




⑦首目から⑩首目までの4首は、久々湊盈子の気性がそのまんま出て

いるような(勝手な思い込みでごめんなさい。)飾り気のなさがいい。

「今日がいちばん若い日」とうたい、「われもいそいそ三日の独居」なんて

素晴らしい(笑)。湿潤な歌から、一線を画するところが久々湊盈子の短歌

だろう。

                   2017年8月10日  3000円+税

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