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2017年10月24日 (火)

『旅のかばん』 草田照子歌集 ながらみ書房

2009年1月から2017年6月までの作品、392首をほぼ編年順に

収めている第6歌集。「かりん」所属。

      種(しゆ)をつぐことものすごきかなマンボウの産卵一度に二億三億

      子はなくてもとよりなくてさびしさを知らざるわれをさびしむ人は

      食べて寝て仕事をすこし飛鳥Ⅱ これでいいのか何かが足りぬ

      夫の部屋に旅行かばんあり長旅に何も持たずにいつてしまつて

      遠く行くひとりの旅は船がいい 陽水うたへどさうともいへず

      友逝きし六十九歳夫逝きし六十九歳 いかなる峠

      ほたるいかそのやはらかき春の味かみしめてゐる生きてあること

      あんパンは桜の匂ひあんパンは春の季語とぞ坪内稔典

      わが家には仏壇なくて本棚の一隅に夫は八年を住む

      癌と知りジャガーを買ひし佐野洋子そんな元気な死に方もいい






1首目、マンボウの産卵を「ものすごきかな」と驚いている。その素直さは

     歌の巧知を超えて迫ってくる。


2首目のいわくいいがたい思い、子どもがいないことが即ちさびしさに

    繋がると信じている人に、どのように言えば納得してくれるのだろうか、

    と。


3首目は、飛鳥Ⅱでの短歌教室講師という仕事。すでに6回の乗船を経験

      しているとのこと。下の句の「何かが足りぬ」思いもわかるような。

4首目、黄泉の旅へと行ってしまった夫。旅行かばんは部屋に残されて

     何も持たずに行ってしまったのだ。

6首目、9首目は亡き夫をうたっている。69歳という齢の峠を越えられなかった

     こと。そして、その亡き夫は本棚の一隅に8年間を住み、作者を守り

     続けているのだろう。




7首目、10首目には〈生〉と〈死〉がさりげなく詠まれている。


大仰な表現や感情に溺れることもなく、在るがままの自身の姿や事物を

淡々と詠まれており、そのことがとても尊く感じられる。

夫亡きのちの8年は作者の試練の歳月であり、作者に〈生〉の意味を問い

直す歳月でもあったのだろう。

                        2017年9月30日 2500円+税

 

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