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2017年11月13日 (月)

『散録』 外塚 喬 歌集   短歌研究社

2011年から2016年の作品を収載。但し「朔日」に毎月発表した作品は

除かざるを得なかったと「『散録』覚書」に記す。

歌集名の『散録』は、造語かと思ったら、「心に浮かんだことをとりとめもなく

書きしたためた記録」と『広辞苑』にあるそうだ。

 

   もしや今日は天老日(てんらうにち)かわだかまり何ひとつなく空は冬晴れ

   古書店を出て古書店に入りこむ無為なるやうな時間惜しまず

   退職してもう十年かいやまだか遊び足りない遊ばなくては

   何度癋見(べしみ)の顔したらうか焦(こが)れ死(じ)にすることもなく年を

   重ねつ

   連れ合ひといふ関係は貸借があるやうなないやうな不可思議

   生存の確認のためにくる葉書 年金受給者のわれはしたがふ

   敵が減り味方が多くなるころにエンディングノートが必要となる

   こころさへ人にあづけて空火照(そらほで)りするみんなみの街を帰り

      来(く)

   居士(こじ)などになつてどうするわたくしに忘れられない人増えてゆく

   七十歳(ななじふ)は通過の地点 生きぬきて原発ゼロとなる世を見たし

 

「心に浮かんだことを‥‥」さらり、はらりと、うたっている。そうは思うけど、

なかなかどうして手強い。たとえばこのパソコンで印字するのだって、クラウド

機能をつかわないと出てこないような「癋見(べしみ)」などという言葉がある。

①首目、歌集巻頭の歌だが、「天老日(てんらうにち)」に先ず躓く。

 調べると、陰陽道で万事に吉の日らしい。そうか、心にわだかまりが何

 ひとつなくか〜んと冬晴れなのだ。歌集巻頭にふさわしい歌でもある。

  (「天老日」って、次の歌集名にしたいくらいだ  笑 )


⑤首目の「連れ合ひといふ関係」は、いかがなものでしょう(笑)。貸借があると

 いえばあるような、無いといえば無いようなものかも。


⑥首目は、まことに最もでございます。(わたしは時折息子に生存確認をして

 いますが…)

⑧首目の「空火照(そらほで)り」も、はじめて知ったことば。

 すてきなことばが其処此処に。






⑨首目の歌は、かるくうたっているけど、死んで「居士」になったって、

 つまらん、つまらんという作者の嘆きが籠っている。






そして⑩首目、「原発ゼロ」の来る日を期待している作者の切なる心が

為政者の皆々様に届くように祈るばかりである。

前歌集『山鳩』が2015年の刊行だから、矢継ぎ早のこのたびの第12歌集で

ある。「短歌研究」誌上に30首連載があり、作品も溜っていたのだろう。

七十代男性の味わい深い〈生〉が満喫できる一冊ともなっている。








前歌集は母君が亡くなられ、息子としての母恋の歌に注目したが、

今回の歌集にも〈母恋〉の歌はかなりあった。その中の1首を紹介したい。

 

          咲くことが愉しいやうに山茶花の咲いて霜月 母の忌が来る

     
    

                      平成29年10月20日  2800円+税

 

 

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