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2017年11月 8日 (水)

歌集『遠雷』 前川明人  本阿弥書店

2015年4月から2017年9月までの377首を収めている第八歌集。

作者は「未来」、「幻桃」(松村あや創刊)、「草笛」(桑田靖之創刊)に所属

している。「幻桃」も「草笛」も未来系である。

      
      鯉のぼり降ろされながら気を吐きていくばくの布になってしまいぬ

      死力とは一体どんな力だろう暈かぶる月見ながら歩く

      救急車のサイレン大袈裟に鳴りいるをわれのものとは思わず聞き

      おり

      鬼婆と天使がときどき入れ替わり点滴袋を吊るして去りぬ

      戦争は絶対勝たねばならないが勝っても負けても人間が死ぬ

      負け犬にならないうちにさあ踊ろうマラカス振って太鼓を叩け

      励まされ米寿となりたるうれしさよ街路樹のむこう光る塔尖

      世捨人になりたくはない立冬の狛犬見ながら石段のぼる

      東京の五輪までは生きたいなあひしめき群がる五彩の風船

      生きるため鳴いているのか死ぬために騒いでいるのか長崎の蟬

いずれの歌も平明で、生活の日常のなかからうたわれている。

7首目の歌にあるように、作者を米寿を迎えている。齢(よわい)、88歳にして

3つの歌誌に歌を出しているそのエネルギーと執着心、そして努力。

ちょっとやそっとでは真似できない。

3首目の歌は、おそらく作者が救急車で運ばれたのだろう。迎えに来るために

鳴らしているのか、あるいは救急車の中であのピーポピーポの音を聞いて

いたのだろうか。





4首目などを読むと、結構辛口の作者でもある。

点滴袋を吊るすのは、看護師さんだろうから、「鬼婆」や「天使」と評価された

看護師さんがいるのだ。病者となった作者とはいえ、8首目にある言葉の

「世捨人」にはちっともなっていない。その意気や善し。


5首目を読むと、作者の世代は戦争体験者であり、負け戦のみじめさを

存分に知っている。それゆえに「勝たねばならない」のだろう。しかし、「勝って

も負けても人間が死ぬ」道理を熟知している。戦争は避けなければならない

し、戦争はこの世に存在してはならないのだ。






ちょっと気になったのは、7首目の「塔尖」。さいしよのカキコミであやうく

「尖塔」とするところだったが、原作は「塔尖」となっている。

そうか、刀のきっさきなどを「刀尖(とうせん)」というから、塔のきっさきは

「塔尖」(とうせん ? ) なのかな。

高齢になると、女性よりも男性の歌の方が面白い。

それはなぜなのか、考えている。

男性の方が解放的になるからだろうか。

                      2017年10月17日  2700円+税


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夕刊(朝日新聞)を読んでいたら、「あるきだす言葉たち」に目がとまった。

きゃ〜、「未来」の西巻 さんだ。

タイトルは「横浜」。

このタイトルに目が行ったのかもしれない。「横浜」♥♥

8首中の3首を。

 

 

 

        横浜        西巻 真(にしまき まこと) 
   

     勤務終へて夜へ赴けばひろがりぬ開港祭のひかりの花火

     人のゐる窓から順に点(とも)りゆくみなとみらいの大きな団地

     まぼろしに白き船あらば春だらううつつにあらばさびしさだらう

 

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