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2017年11月29日 (水)

歌集『羅針盤』 本川克幸  砂子屋書房

2016年3月、著者・本川克幸氏は急逝された。享年51歳。

北海道の根室在住であった。

未来短歌会の佐伯裕子選歌欄の「月と鏡集」に投稿されていた。

遺歌集となってしまった本集は、2012年から2016年までの「未来」誌上に

掲載された作品を収めている。

歌集題となった『羅針盤』は、2014年未来賞に応募された連作「羅針盤」から

とられている。



2016年7月号の「月と鏡集」の「選歌をおえて」で選者の佐伯裕子さんが

下記のように記していたのが印象に残っている。そのページを改めて開いて

みた。

 

      --略

     北の海を守る仕事に就いていて、歌には、やや甘いロマンチストの

     面が出ていた。いつも一番早く歌稿が届くのに、今月は来なかった。

     最後に受け取った歌稿の、最後の歌を記しておきたい。

          みな何処へ泳ぐのだろう湖に浮かぶ君から離れて浮かぶ

                                    本川 克幸

     若い人の死に接すると、得体の知れない憤りがこみ上げてくる。

     --略

51歳の若い死を、佐伯さんは悲しみ、憤っている。本当に痛ましいと思う。

遺歌集となってしまったこの集の「あとがきに代えて」を、本川さんの夫人の

和美さんが綴っている。

       言葉とはしずかに置いてゆくものと思えどふいに燃ゆることあり

       最新鋭の巡視船です(大海にうかべばしょせん金属の箱)

       本当は誰かが縋っていたはずの救命浮環を拾い上げたり

       こわれても修理をすればよい船とこわれたままで働く心

       あの頃を取り戻すにはどうすればよいのでしょうね電信柱

       夕焼けがこわいのですか夕焼けを見ていることがこわいのですか

       ねじまげてねじまげられて過ぎてゆく 冷たい水の上の時間が

       朝焼けのあとの静かな海の上をどう飛ぶべきか決められぬ鳥

       坂ひとつ越えたらこんな静かな場所 エレベーターで星を見に

       ゆく

       夕焼けが消えてゆくのを見ておりぬ壊れたアンドロイドのように




鑑賞するにも勇気がいるような、せつない歌ばかりだ。

5・6・7首目など、笹井宏之さんの感性に近いものを感じる。

この世では生き難いような震える心を感じるのだ。

皆さんには是非お手にとられて読んでほしいと思う。


生涯一冊の歌集を遺した本川克幸さん。

謹んで哀悼の意を表します。


                   2017年11月25日   2800円+税

 

 

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