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2017年12月20日 (水)

歌集『遠音よし遠見よし』 伊藤一彦  現代短歌社

「心の花」に入会したのは1968年、来年で50年になる著者の

518首を収めた第14歌集。

牧水研究家としても高名な著者だが、日本の各地を旅し、そして、

日向(宮崎)の地をこよなく愛していることが歌からも伝わってくる。

    姫島はあさぎまだらの休息地ふぢばかまのうへ低く高く飛ぶ

    久久に逢ひて拝める阿修羅像 より若く見ゆわが老いし分(ぶん)

    私(わたくし)は人ではないとあぢさゐが人のかほしてまつしろに咲く

    次つぎに滝壺のなかに飛びこめる紅葉(もみぢ)の速度びめうに違ふ

    神楽のくに日向(ひうが)にありて今年まだ神楽を見ぬは言はずに秘密

    被災地に行きしは一度 何もしてゐないと歌ふも震災詠か

    境とはへだつるところ境とはあひあふところ この世は境

    めぐりなる家家まもり社のみ大屋根落とし静まりてをり

    夫婦二人どこにも出でず誰も来ぬ稀なる一日(ひとひ)ふたり

    宴(うたげ)す

    フランス語に似ると言ふ人ときにある日向弁もて花の雲語る


①首目は、大分県の東国東郡(ひがしくにざきぐん)の小さな島。わたしの

 故郷から近く、伊美港から船が出ている。お盆には「キツネ踊り」で観光客

 が多い。近年はアサギマダラの飛来地としても有名になり津々浦々から

 人々が観賞に訪れる。

②首目、阿修羅像を拝んだ時の「より若く見ゆ」の発見 ? が、ユニーク。

④首目、何が飛び込むかと思いきや、紅葉でホッとした。しかし、その

 飛び込む速度が微妙に違うとは、よくよく観察している。

⑤首目、「神楽を見ぬは言はずに秘密」が、いかにも著者らしい。悪戯っ子の

 ような茶目っ気さが微笑ましい。

⑥首目もまこと正直というか、人間性の感じられる歌。

⑦首目は、今年のお正月にお参りした阿蘇神社はいまだにシートが

 被されていた。しかし、参拝客の多さは、「めぐりなる家家まも」った

 所以でもあろう。

⑩首目、日向弁がフランス語に似ているとは、知らなかった。










いずれの歌も平明であり、一読、意味も理解できる。

変に文学的にしようなどという気負いのないところがいい。

足の向くまま、気の向くまま、(必要に迫られての旅もあるだろうが)各地を

旅し、人との出会いやふれあいを愉しんでいる様子がなんとも爽やかで

ある。

充実の七十代、充実の第14歌集である。タイトルになった歌は下記。

    遠音よし遠見よし春は 野への道ひとり行きつつ招かれてをり

                     2017年12月15日発行   2700円+税




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速報で〜す。

あろうことか、あの北大路翼(きたおおじ・つばさ)さんが、朝日新聞の

「ひと」欄に掲載されています。本日、12月20日の朝日新聞の2面です。

アウトロー俳句を出版したということで〈時の人〉になってしまいました。

著名人になってしもうた、と、一抹の寂しさがなきにしもあらずですが、

まぁ、喜ぶことにしましょう。

           太陽にぶん殴られてあつたけえ



     

           僕にとって俳句は世の中に対する疑問や悩み、

           怒りがきっかけで生まれる。だから俳句事体

           アウトローな行為だよ


その言や良し。

著名人になってしもうて、己れを規制しないこと(笑)。

博多から応援しています。

 

 

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