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2018年3月26日 (月)

歌集『首長竜のゆふやけ』 藪内眞由美  北羊館

「夕焼けを見ていると、引きこもりがちな自分が粒子になって茜色の空の

なかに溶けてゆき、こんな私が存在することもゆるされるような気がして、

とても安らかな気持ちになります。」とあとがきに記す第一歌集。

「海市」短歌会に所属。


   ただ立つているだけなのになつかしい百葉箱はあなたでせうか

   落ちてくる雨があまりに疾いからわたしはわたしを流せずにゐる

   小刻みに動く男ののどぼとけ分かりあへないもののひとつに

   わが膝を指定席のごと座りゐる子とふたりなり春の日の午後

   雲ひとつない青空といふこゑがきこえて雲はかなしくなつた

   息継ぎの下手なわたしはよく沈む結婚、出産節目ふしめに

   教科書の子規の頭に毛を描きて窓のむかうの雲を見てゐつ

   さみしいと言へばいいのに怒らずにさみしいんだとたつたひとこと

   なぜだらう やさしい人からゐなくなり昼の空にはかさぶたの月

   かあさんが私の頭を踏んでゐる 娘のこゑが理解できない




2003年から2017年までに作った歌ということで、満を持しての出版だろうか。

一人の女性の日々が詩情豊かにうたわれている。

ことに6首目などに、この世に産まれることなく亡くなったいのちに対する

自らへの責めのようなものが尾を曳いている。


8首目の歌は、相手を特定はしていないが、心にひびいてくる。これは

自分自身の呟きともとれそうだ。

子育ての日々は終わりがあるようでない。


10首目の歌に母子の気持ちの齟齬がうたわれている。娘の心は自立した

がっている。だけど、母親である作者にはまだ幼い日のままの娘なのだ

ろう。



丁寧に丁寧に自分の心を凝視めていることの窺える一集だった。

傷つきやすく、もろく、はかないような、作者の心の内面。

清冽な空気を纏った第一歌集であった。


                                     帯文 江畑 實

                 跋 「才媛素描」 中川 昭

                 2018年2月25日発行   定価 2700円(税込み)

 

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