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2018年4月 9日 (月)

歌集『いらっしゃい』 山川 藍   角川書店

1980年生まれの著者の第一歌集。「まひる野」に所属。

   いらっしやいませが言えずに泣いたことあるから人にやさしくしたい



歌集題にもなった一首。

山川さんの歌を読んでいると、心がやわらかくなる。

心も、体も、ほぐれてくるようなあたたかさだ。

この世で生きることや、生きている時間、経験などが、そのまま素朴に

うたわれている。この世で生きていること、山川さんの生存生活が直に

伝わってくる一集である。

   

   いつ飲んだ薬のせいかわからんが寝たい眠たい猫さわりたい

   涙腺の元栓さがす空港で出世したくてたまらなかった

   目を閉じてしまいあぶない階段でむずかしいこと言わんといてよ

   障害者用トイレから父に電話する電話しょうかと言われ断る

   可愛いかどうかは会ってから決める  知らない人の知らない子ども

   両耳をふさいで会いにゆく祖母はわたしの海馬に移住しました

   母の声刺さらぬように身を低くしつつご飯がそれでもうまい

   過呼吸のわたしを逃がしてくれた人も四月で派遣契約解除

   叫び声が台所からする兄だゴキブリ見たな 働きなさい

   友達はわかってくれる上司には伝わらないね日本語なのに


山川さんのいちばんの理解者の父親がいて、

けっこう口うるさい母親がいて、

無職の兄がいて、(だけど、大好きな兄ちゃん?)で、

猫大好きで、

祖母は死んでしまって ?    ‥‥‥


わちゃわちゃと生活の匂いのする一集である。

その生活の匂いは、よき時代のバランスのとれた家族の肖像のように

さえ思えてくる。



過酷な労働にもめげず、笑い飛ばす茶目っ気が備わっているのは、

愛情に包まれて育った所以であろうか。


身体的にはホントは逞しくはないのだろうけど、精神の健やかさを感じる。

「ご飯がそれでもうまい」と、言えるのはいいことなのだ。

「生活即短歌」、山川さんの歌には人生が詰まっている。


                帯文  津村記久子

                栞   あたたかさは隠せない  米川千嘉子

                     噺家の背後に       斉藤 斎藤


                        2018年3月27日 初版発行

                        定価 2300円+税

 

 

   





    

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