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2018年6月18日 (月)

歌集『海に鳴る骨』 髙野 岬   角川書店 

「塔」短歌会、所属の第一歌集。

都心から、神奈川県の小さな半島に移住した著者。

従って、おのずと海の歌が多い。

     海にだけ淡き水色(みづいろ)配されて夫(つま)の港の絵が卓にあり

     君の亡きあとも浜辺を歩くだらうその日も鷗が飛び立つだらう

     青空に芯はあるかと目を凝らす 一体誰が死んだのだらう ?

     我が犬を抱きゐしときの手触りをどのやうにして覚えておかむ

     助手席から見てゐる空に飛行船が浮かんでゐたんだけれど

     言はない

     常にゐし犬の存在うしなひて私達はもう喧嘩をしない

     また誰かが話し出すまで我ら皆卓の向かうの海を見てをり

     誘導灯またたく中を着陸す また東京が嘘ついてゐる

     求めなくなつたからなのだ死んだ犬がその気配さへ消してしまつた

     のは

     天井の白みてゆけりこの朝がきのふにつづくけさであること




こうして書き写していると、胸のあたりがせつなくなってくる。

この作品の透明感は、わたしが失ってしまった清澄さであろうか。

1首目に「淡き水色」を配した海の絵がうたわれているが、この歌は本集の

巻頭のうたでもあり、『海に鳴る骨』を、総括しているようにも思える。




淡彩の絵画を眺めていると、心が穏やかになってゆく、そんな感じの一集で

ある。たとえば、マリー・ローランサンの絵を思い浮かべる。

猥雑さや、喧騒が微塵も感じられなく、7首目にあるように、「卓の向かうの

海を見てをり」なのだ。



6首目・9首目の「犬の存在」。

常に生活の傍らにいた犬が死んだことによって、次は……という懼れ。

喪失を予感するような懼れ、とでもいおうか。



                    栞文 加藤 治郎

                        川野 里子

                        三井  修

                    2018年5月25日 初版発行

                            2600円 税別

 

 

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