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2018年7月29日 (日)

歌集『つららと雉』 黒﨑 聡美    六花書林

2009年から2018年までの388首を収めた第一歌集。

「短歌人」所属。

      わたしたち何かがきっと足りなくて流されそうな草を見ている

      春雨は沼のにおいを漂わせ大人ばかりの家へと帰る

      こんな夜に星を見ようときみは言うきみが夫でよかったと思う

      恋人と妻のちがいはどこだろう鏡のなかの太い二の腕

      ひだまりにカステラの味思い出す関係をひとつ壊してしまった

      きみよりも祖父の体にふれる日々こうして家族になってゆくのか

      最初から夫のような人だった手をつながない散歩は続く

      やもりのような気配を持って家かげに停車しているパトカー一台

      待合室はさいしょに暮れてさかさまに戻されていた雑誌を直す

      少しずつ点が小さくなるようなきみとの暮らしにあかりを灯す



なんともまぁ、初々しいというか、「ひたすらさ」の伝わってくる第一歌集で

ある。

結婚して夫の家族との同居 ?   そのなかで夫を見詰め、夫との暮らしを

築こうと努力している健気な作者像が浮かんでくる。


1首目、2首目には、あやうさが心持ち伝わってくる。そのあやうさに作者は

気付いているのだろう。


3首目は「三月十一日」の章の、一首中の一首。

「こんな夜」とは、東日本大震災の起きた日を指している。


8首目、9首目はわたしの好きな歌。

好きなというより、こんなかたちで嘱目や日常をうたってゆけばいいのにと

思う。違和感や齟齬が自然に表出されていて、好ましい。


読後、つらつら思ったことは、幸せな結婚生活を営んでいるのだけど、

どことなく、不安定な、居場所を確保できていないような不安感が

そこはかとなく漂うことだ。そこが詩でもあるし、作歌するには

好都合なのだけど、……どうかしら。



小池光の栞文のタイトルは「期待の人」。

わたしも同じく「期待の人」だと思う。


                     栞文  米川千嘉子

                          穂村  弘

                          小池  光

                     2018年7月30日 初版発行

                         2200円+税

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