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2018年7月15日 (日)

『片山廣子』 古谷智子 本阿弥書店

「心の花」の歌人・片山廣子の評伝。

441ページもの大冊であり、著者の渾身の力がこもる一書。


明治11(1878)年生まれの片山廣子は、与謝野晶子と同年ながら、

その歌も言動も晶子に比べると世の認知度が低い。

しかし、優れた近代歌人であり、松村みね子名のアイルランド文学の

翻訳者でもあった。




著者の「はじめに」の文中に「廣子は生来の立ち位置を少しもずらすことなく

一点に立ち、時代を見据え、静かな知的変革をはかった。(略)」と、書かれて

いる。


この書で知った、芥川龍之介との接点に少なからず興味が湧いた。

Ⅲ部の「匂い立つ思慕」は、廣子が芥川に送った手紙を引用しながら

筆を進めている。

42歳で夫・貞次郎に逝かれた廣子にとって、芥川との出会いは、その後の

文筆生活のみならず全余生を彩ったことだろう。しかし、その思慕は芥川の

自死によって実ることはなかったし、廣子の自分自身を律する姿勢は変わる

ことはなかったのだろう。



    (略)わたくしたちはおつきあひができないものでせうか

    ひどくあきあきした時におめにかヽつてつまらないおしやべりが

    できないものでせうか あなたは 今まで女と話をして倦怠を

    感じなかつたことはないとおつしやいましたが わたくしが女で

    なく 男かあるひはほかのものに、鳥でもけものでもかまひませんが

    女でないものに出世しておつきあひできないでせうか これはむり

    でせうか                 大正13年9月5日付


     



14歳年下の芥川との出会い、適齢期の子を持つ節度と自制、そして懊悩。

男と女という関係でなく、知性を磨きあい、深めあう関係を欲っしていたとも

とれる。


まだ、全ページ読み終っていないのだが、短歌作品を少し紹介したい。



     うつせみは木より石よりさびしけれ此ますぐなる性(さが)を捨てばや

     我が世にもつくづくあきぬ海賊の船など来たれ胸さわがしに

     よろこびかのぞみか我にふと来る翡翠の羽のかろきはばたき

     いくたびか老いゆくわれをゆめみつれ今日の現在(うつつ)は夢

     よりもよし

     動物は孤食すと聞けり年ながくひとり住みつつ一人ものを食へり


                        平成30年7月7日 第一刷

                           3800円+税



     

P・M 8:00      細い細い月が、金星に「おいで、おいで。」をしている

         みたいだった。

 

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