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2018年9月16日 (日)

歌集『戻れない旅』 生田亜々子   現代短歌社

「第5回現代短歌社賞」を受賞した生田亜々子の第一歌集。

この賞のご褒美は歌集を出してくれることだったか。

受賞作品と同じタイトルの歌集題となっている。

 

      
      流れとは逆に光は運ばれて汽水の川に潮上がり来る

      真夜中の静けさの中手を見ればさみしいこれは母と同じ手

      朝食にりんごを剥いて親子とはなりたくてなるものではなくて

      乳房まで湯に浸かりおり信じたいから測らない水深がある

      子を探し子の中へ行き自らの中の子供をそっと放した

      捨てられぬ記憶を持ったわたくしのなにかが夜の底まで沈む

      水の音立てては泣いた日もあって収拾のつかない子供だった

      簡単に消去できない傷があり嗚咽が漏れるのならばそこから

      動物はお昼ごはんを食べながら孤独だなんて思っちゃいない

      ねなしぐさ根の絡まってふるさとはいつも今居る場所と定める



 

結婚して子どもがいて、それでもなお埋まらないような何か。

それは直接的にはうたわれていない。

うたわれていないのだが、亜々子さんには何かとても大きな深い〈傷〉が

あるような気がしてならない。

〈傷〉などと、簡単に言ってしまいたくないのだが、ものごころつくか、つかない

頃の記憶が心の奥の奥の方に溶けないで残っているのだ。




みどりごのお尻に蒙古斑がある。

その蒙古斑は成長するにつれて消えてゆくのだが、亜々子さんは、

その蒙古斑を抱えたまま大人になってしまった。

いや、違う。大人になって文学の世界に入って、その蒙古斑が

ぶりかえしたのだ ?



抒情的な香りのする歌集だった。

近代短歌の香りでもなく、現代の若者風でもなく、ほどよい味つけの

歌が並んでいる。何よりぺダンチックな言い回しがないのが好ましい。

そして、アクロバット的な技法もなく、読んでいてもつっかえない。




そういえば、9月のはじめだったか、西日本新聞の「随筆喫茶」に

亜々子さんの「私どこの人 ? 」が掲載されていた。

その中で「子供の頃の記憶」のことが書かれていた。

ハードな外遊びが好きな子どもだったらしいが、その胸の裡には

きっと周りの子どもたちの知らないようなものを抱えていたのかも知れない、

などと、想像(妄想 ? )している。

第一歌集、ご出版、おめでとう happy01


             栞  

               リアリズムでないリアリストの人    伊藤一彦

               夏の野原を歩くために          大森静佳

               ラムスデン現象のように         沖ななも

                                 2500円+税

                                 2018年8月27日

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