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2018年10月22日 (月)

『あらがね』 本田一弘歌集  ながらみ書房

2014年夏から2018年1月までの歌より自選した421首及び

長歌1首を収めた著者の第四歌集。

年齢でいえば45歳から48歳までの歌。

    山鳩はかなしみを啼く此世(これのよ)に生まれ出でたるたれの

    かなしみ

    樫の実のひとりに生まれ死にてゆくことを肯ふにんげんなれば

    豆をもて誰を打つべし責任をなすりつけあひ四ねんが経ちぬ

    みちのくのしのぶもぢづり誰ゆゑにわが産土を捨てねばならぬ

    忘れねば生きていけねどこのところ震災詠はめつきり減りぬ

    むらぎもの心を痛むみちのくの身元不明のなきひとのこゑ

    二学期は中島敦『山月記』から始めるぞ 教科書を出せ

    梅の実の青水無月の夜をねむる猫のこどもの鼻のももいろ

    自転車に乗りおほちちはやつて来る鉄(くろがね)色のペダルを漕いで

    「フクシマ」の表記はわれが知つてゐる福島ぢやない 大嫌ひなり


5首目、震災詠が減ってゆくのを憂う心。

7首目は教師としての現場の歌。

こういう歌を読むとほっとする。

日常のなんでもないようなことが、とても輝いている。

〈生きる〉とは、こういう日常の積み重ねなのだと、思う。




9首目は、在りし日の祖父の姿であろうか。

健やかであった頃の祖父の姿を活写している。



2018年10月21日の西日本新聞には、壊滅状態になった市街地を

ぼうぜんと眺める住民の2人の姿の写真が掲載されていた。

その写真に添えられた稲田記者の下記の言葉が胸に刻みこまれた。


          極限状態になると人は表情や言葉を失うことを

          初めて知った。

          (略)朝日が昇ると、街は消えていた。



2011年3月11日の震災。

決して忘れることのできない、忘れてはならない震災だった…


                            2018年5月28日

                             2500円+税

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