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2018年12月18日 (火)

歌集『梛の木なぎの実』 本阿弥秀雄   いりの舎

2013年初めから2017年秋までの483首を収めた第5歌集。

    
         天主堂通り平和町商店街はとや玩具店あり春のゆふぐれ

    その顔をよくよく見ればわが顔をつくづく見らる途上の猫に

    両の掌にわが頬はさむ力ありき昨日の宵の母の身体は

    このドアを内から開くことあらず枯野へ出づる用のなければ

    窓を拭く女ときどき背を向けて何をか布に含ませてゐる

    谷間より吹き上ぐる風は庭前の山百合の香を部屋に運び来

    北限のこの地に生ふる梛の木は黒みばしる実あまたを落す

    猫はみな西の方見て端坐せり陽の沈むころ午後の四時半

    しなざかる越(こし)の八尾の鏡町二夜を過ぐし黒月に入る

    廃棄して消して忘れて誉めらるるそんな仕事を一度はしたい


1首目、「春のゆふぐれ」の結句によって定着した。

2首目、途上の猫は逃げもせず、つくづくと作者の顔を見たのだ。猫は

     猫好きな人を察知して。

3首目、母が最期に出した力であろう。息子の頬を両掌で確かめるため。

     
4首目、短篇小説の一行にもなりそうな。

7首目、梛の木は、温暖な地方にある木みたいだ。この歌の前に

     「琉球ゆ土佐にあがりて紀伊を過ぎ伊豆に着きけむ黒潮の木、梛」と

     うたわれている。

10首目、「そんな仕事を一度はしたい」は、願望にさにあらず。これはシニカル

      な歌と思う。「そんな仕事」を、作者は出来はすまい ?

             だけど誉める人がいる世の中なんだ。



リタイアしたのちの日々が豊かにうたわれている。

海山に近い環境が、更に歌に彩りを加えてゆくことだろう。

                               2018年10月22日 発行

                                   2700円+税

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