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2018年12月19日 (水)

歌集『超高層の憂鬱』 桜井京子 角川書店 

2008年から2017年までの作品465首をほぼ制作順に収めた

第二歌集。著者は「香蘭」選者。


     岩波と新潮文庫の違ひにて子の書棚にも『蟹工船』ある

     眠い眠いほんたうに眠いと思ひつつ眠つてゐたり夢の中でも

     詩歌など作らなくとも生きられるさう思ふ時すこし安らぐ

     気のりせぬ秋もあるべし彼岸花咲きはじめたり彼岸を過ぎて

     もう少し何とかならなかつたか もう少しと言ふそのもう少し

     ふるさとに母が壊れてしまひたり壊れ続けて壊れたる母

     カーテンを開ければいつか冬晴れの或る日終はりといふ或る日来む

     をんなには雑用があり雑用はをんなを強くすさはさりながら

     手の届きさうなところはもぎ採られ花梨は静かな樹として立てり

     カーテンの隙間をすこし開けておく明日もきつと朝が来るから


タイトルに「憂鬱」のことばが入るように、ゆううつな歌が並んでいる。

居心地の悪さというか、この世に折り合いをつけられないような。


1首目、『蟹工船』は、バイブルのような世代の著者。しかし、子の書棚にも

     それが有ることを知った。岩波文庫でなく、新潮文庫だったのだ。

3首目、「詩歌など作らなくとも生きられる」のは、正解でもあり、正解でも

     ない。歌が精神の安定剤になったり、生きていく上での支えにも

     時としてなる。そのことを重重わかった上での1首であろう。

4首目、律儀に彼岸頃に咲く「彼岸花」。その彼岸花だって、気のりのしない

     秋もあるだろうに、と思い遣る。

6首目、母はふるさとで患う。認知症ということは表に出していないが、

     「壊れたる母」は、通常の精神が保てなくなってしまったことを

     指しているのだろう。

     遠く離れて暮らす著者には手の施しようがないのだ。

8首目、現代の若者たちには、こういう受け身の精神はないかも知れない。

     雑用なんぞで、強くなる ?   のは、御免蒙るみたいな‥‥

     結句の「さはさりながら」で、100%肯定していないことは窺える。

10首目、「朝のこない夜はない」と言ったのは、吉川英治だったか ?

            「明日もきつと朝が来るから」の結句は、ひとすじの希望でもある。





それにしても高層マンションの21階に住む、と考えただけで頭が

くらくらとする。生活するとなると、わたしにはゼッタイ、ダメ。

だけど、海べりのマンションなら日がな一日、海を眺めて暮らすことも

出来る。海の夕映えは想像するだけでもすてきではないか。


                           帯文 千々和久幸

                           2018年8月10日 初版発行

                             2600円+税

 

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