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2018年12月20日 (木)

『六本辻』小林幸子歌集  ながらみ書房

2012年春から2017年夏ごろまでの作品534首を収めた第8歌集。

2014年12月28日に他界された原田汀子さん、そしてふたりきりの

姉弟であった弟さんの逝去と、たいせつな人との永訣の歳月でも

あったようだ。


    からまつの芽吹きの森に雪がふりあかるくて迷ふこともできない

    鯉のぼり四月の空にいきほひて国境(くなさか)は桃のはなざかりなる

    パンケーキふつくら焼けてアカシアの蜂蜜の蓋まだ開けられず

    狂ほしく狂ほしくしてこの星はどこへ向かつてゆくのだらうか

    おとうとの死は伝へられ嘘のやうに明るいゆきがまた降りてをり

    おとうとが十二時間ほど生きてゐたさびしい羊の年を忘れじ

    やうやくに夢をぬければまた夢のなかなる夢の怖ろしかりき

    生れこし時間になれば見上げたりミモザの花の黄色い空を

    森の樹や野の花をほめ沼を頌めむ在りし日にきみがうたひしやうに

    一杯だけビールを飲まうおとうとよ だれも死者とは知らない町で





5首目、6首目は弟さんの挽歌。

新年になって12時間ほど生きていた弟、それは2015年の未年だった。

姉の作者ならずとも衝撃的で、「誰からも忘れられぬ日を命日とせり」と

なってしまったのだ。


8首目は、亡き子に寄せる歌。

9首目の「きみ」は、原田汀子さんのことだろう。同人誌「晶」のお二人の

伴走ぶりが頼もしかった。


亡きひとに寄せる思いの深さ、ことに10首目の弟が留学したことのある

ドイツとの国境に近いエンスケデのカレッジを訪れ、弟を偲んでいる。


挽歌や追悼歌もさることながら、わたしは小林さんの1首目の歌や

2首目の歌、3首目、4首目の歌も好きだ。

1首目の「迷ふこともできない」の口語体がかろやかで、

2首目、3首目のパステルカラーの趣きも愛している。

                           2018年11月4日発行

                             2500円+税

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