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2018年12月23日 (日)

歌集『滑走路』 萩原慎一郎  角川書店

2017年12月25日 初版発行だった歌集を遅ればせながら読んだ。

Yさんにお借りしたのは、2018年6月15日の3版発行のものだった。

NHKのニュースウォッチで放送後、大反響だった一集でもある。

 

            今日という日もまた栞 読みさしの人生という書物にすれば

 

    あの角を曲がれば そうさ 新緑に出逢えるはずと心躍れり

           空だって泣きたいときもあるだろう葡萄のような大粒の雨

           消しゴムが丸くなるごと苦労してきっと優しくなってゆくのだ

          ぼくも非正規きみも非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる

          箱詰めの社会の底で潰された蜜柑のごとき若者がいる

          非正規の友よ、負けるな ぼくはただ書類の整理ばかりしている

          シュレッダーのごみを捨てにゆく シュレッダーのごみは誰かが捨てねばならず

        コピー用紙補充しながらこのままで終わるわけにはいかぬ人生

           夜明けとはぼくにとっては残酷だ 朝になったら下っ端だから

 

1首目、2首目を読むと、「希望」が垣間見える。

「32歳で命を絶った」という先入観がなければ、この2首など、若いひとの

弾むような〈いのち〉の輝きが感じとれる。

 

5首目の「非正規」のことばによって、この『滑走路』は、悲劇的な様相を

帯びてくる。社会問題にもなった「非正規」のことば。雇用関係が年々厳しく

なる一方である。その非正規の作者が「牛丼屋にて牛丼食べる」には、胸が

しめつけられる。注文すれば手早く出来、そして、安価な牛丼。

 

7首目、「負けるな」は、自励のことばのようにも思える。「書類の整理ばかり

している」には、報われないような、完全燃焼できないような虚しさが在る。

 

9首目、「このままで終わるわけにはいかぬ人生」と、認識しつつ、それが

実行出来なかったのは、なぜなのか。

 

10首目、夜の間は、自由に心が羽搏いていたのだろう。

「きみのため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい」ともうたった

萩原さん。〈翼〉が見つからなかったのか、翼が折れてしまったのか。

 

萩原慎一郎さんは、第4回(平成28年)の近藤芳美賞で、岡井隆選の

選者賞を「プラトンの書」15首で、受賞している。

その選評で岡井隆さんは下記のように書いていた。

 

              選者賞に選んだ萩原慎一郎氏は、この賞だけでなく、今まで

              あちこちで読んで来た常連の一人ですが「プラトンの書」という

            題名が語っているように、知的な作風であり、平均的でととのった

            技巧の持ち主です。この一連もたのしく読むことができます。

 

 

ちなみに「プラトンの書」から5首だけあげてみる。(「風」平成28年度 NHK

全国短歌大会 入選作品集)

 

            抑圧されたままでいるなよ ぼくたちは三十一文字(みそひともじ)で鳥になるのだ

            挫折などしたくはないが挫折することはしばしば 東京をゆく

            更新を続けろ、更新を ぼくはまだあきらめきれぬ夢があるのだ

            無意識のままに歩いて気がつけばいつものように会社の前に

            プラトンは偉大で ぼくは平凡だ プラトンの書を読みつつ思う

                                 岡井隆選 選者賞 「プラトンの書」より 萩原慎一郎(東京)

 

 

稀有な才能を期待されていたのに……

萩原慎一郎氏の新作の「更新」は、もう2度とないのだ。

そのことを思うと、かえすがえすも惜しまれてならない。

 

 

 

 

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