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2019年1月11日 (金)

『大正行進曲』 福島泰樹歌集  現代短歌社

大正時代を生きた人々を、心に寄り添わせながらうたいあげた

渾身の第三十一歌集。

「うたで描くエポック」の副題が付いている。

大正時代といえば、なんと言っても関東大震災直後の甘粕事件が先ず

脳裏に浮かぶ。1923年(大正12)9月16日、28歳の若さで虐殺された

伊藤野枝。標的になったのは、無政府主義者であった。


明治44年1月24日・25日に大逆罪で処刑された幸徳事件もまたなんとも

理不尽な社会主義者やアナキストらへの圧政であった。24日、11名処刑。

女性1人、管野スガが翌日の25日に処刑された。29歳であった。


(この2人にことのほか思い入れがあるのも、今は亡き詩人の一丸章氏の

「女性史講座」で、学んだことによる。同年齢に近い伊藤野枝も管野スガも

革命の先駆者として、脳裏に刻み込まれた。)

     管野スガ二十九歳 中庭に白い蕾がただ顫えてた

     監房に青衣を被り俯くは北原白秋ならば蜩(ひぐらし)

     官能は所詮心の窓である如雨露(じょうろ)で花に水遣ってやる

     中岡良一職業駅員大塚の転轍手(てんてつしゅ)匕首一突にせし

     谷崎潤一郎のその妻ありて男ありて秋刀魚を喰らうあわれ秋風

     だるま小法師のように転んで起き上がる雪降る夜のセンチメンタル

     詩を書くは条理にあらず青い空へ剥製の鳩放ちやるため

     人形屋の角を曲がれば桃色の足くびありて日は射していた

     石膏で固められたうえ包帯でぐるぐる巻きにされて遺体は

     追憶は追憶を生み追憶を、然して新たな悔恨を生む

 


1首の中に人名がなくても、詞書がなくても、うたわれている人物が

想像できようか。渾沌とした大正時代のいっときの光と影。

(そういえば、4首目の首相・原敬の暗殺場所の東京駅。

その場所の目印をわたしが知ったのは、つい先年のことである。)

福島泰樹は今も疾走している。

第31歌集とは、驚くべき数である。

                         2018年11月30日

                          3000円+税

 

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